司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

1年目の弁護士に宛てた手紙

【読むとよいタイミング】弁護士登録前

 

 12月8日、弁護士登録から1年が経過しました。これまでの人生のなかでも、かなりトップクラスに しんどい1年間でした。

 ふだんは本を紹介するブログなんですが、今回はだらだらと私見を述べるだけのつもりです。弁護士1年目を振り返って、「精神的に大丈夫になるためにはどうしたらいいか?」を考えます。文字数多めです。

 たくさん売り上げるためにはどうしたらいいか?とか、ファビュラスな弁護士になるためにはどうしたらいいか?とかはわかりません。

 この1年間で2つの事務所に所属して、それぞれの事務所の仕事のやりかたを体験しました。とはいえサンプルが「2」ですから、汎用性のあることは書けません。何か1つくらい、誰かが精神的に大丈夫になるためのヒントを残せたらいいなと思います。

 また、1つめの事務所も2つめの事務所も小規模な街弁事務所です。大規模事務所には大規模事務所なりの苦労もあるのかもしれませんが、よくわかりません。

 さあ、十分にディスクレーマーをつけたと思うので、そろそろ本題に入りますね。

目次

1人で弁護士事務所をやっていると思い込む

 私は一般企業で長いこと会社員をしていたので、前提として、初めてやる仕事はやり方を教えてもらえるものだと思っていました。しかし、弁護士は仕事を教えてもらえませんし、業務指示みたいなものも無いと思っていたほうがいいです。

 私はとにかくこの点に戸惑いましたし、今でも戸惑い続けています。

 ただ、イソ弁としては、どこかのタイミングでボスのところに成果物を持って行ったり、相談に行ったりしなければなりません。そのタイミングが問題になります。

 そのタイミングについて、私は1つの暫定的な答えを出しました。「もし1人で弁護士事務所をやっているとしたら、この状態で依頼者に説明できるか?」と考えて、行ける、と思ったらボスのもとへ行きます。1人で依頼者に説明できないような状態であれば、まだ持っていくべきではありません。

 言い換えると、大事なのは「根拠を持って、自分が責任を持てる範囲の結論を出すこと」だと思います。

 会社員の話に戻します。会社員だと「一緒に結論を導く」みたいな体験を共有したほうが、チームとしてのパフォーマンスを高められることが多いです。なので、なんとなくの着地地点だけ決めて、あとは話し合って決めようね、みたいな仕事の進め方をします。

 弁護士の場合、とにかくこういう発想を捨てて、自分で「決める」ことをしておいたほうが、かえって議論が捗ります。こういう視点で仕事をするようになってから、だいぶコミュニケーションが円滑になり、精神的に楽になったように感じます。

ふつうの弁護士のラインを知る

 こんどは別の思い出話です。

 私の弁護修習先の指導担当の弁護士はとにかく優しい人柄で、とにかく甘やかされ続けた修習生活でした。「弁護士1年目はとにかく大変だから、今のうちに休んでください。」と言って、弁護修習を休ませまくってくれました。

 弁護士1年目ってそんなに大変なんですか、と訊くと、弁護士1年目は「ふつうの弁護士ができなきゃいけないこと」がわからないから大変なんだ、と教えてくれました。

 弁護士になると、この言葉の意味がよくわかります。最初のうちは何でも答えられなきゃいけないと思って、あたふたしたり、変なこと言ってしまって後から訂正するのに苦労したり、自分にがっかりしたりします。

 私もまだまだ偉そうなこと言えないんですが、1年経つと、「いやいや、そんなの調べてみないとわかりませんよ。」とか「もっと事実関係を聞いてからじゃないと判断できませんね。」とか余裕で言えるようになります。

 こういう返答をするのは別に恥ずかしいことではない、とわかるようになると、精神的に少し楽になりました(別に誇るようなことでもないんですけど)。

同期の弁護士の知り合いを作る

 さっきの項目から続く話です。ふつうの弁護士のラインを知るためには、多くの弁護士と知り合う必要があります。

 私は文学部出身で予備試験経由だったため、そもそも法曹関係の知り合いが全然いませんでした。限界修習地だったため弁護士の同期も同じ地域におらず、オンライン修習のためクラスの知り合いも皆無でした。

 まあそれでもなんとかなるかなと期待していましたが、残念、1つめの事務所を辞めた際にものすごく困りました。

 そのため、2つめの事務所に入ってからは、意識的に弁護士の知り合いを作ろうと思い、委員会の飲み会や派閥の飲み会に積極的に出るようにしました。そこで同期の弁護士がどんなことをしているのか、どんなことに悩んでいるのかを聞いて、かなり精神的に楽になりました。

 あと、一番しんどい時期には、Twitterのリスト機能を使って、FFの75期のみなさんのツイートを毎日眺めていました。知らない同期でも、ああ、みんなも大変な思いをしているんだな〜と勝手に共感しているだけで、かなり救われました。とても感謝しています。

勉強する

 2つ前の項目から続いている話ですが、即答できなくても大丈夫だなと判断できるようになるためには、ふつうの弁護士がふつうに身につけているべき知識を身につけている必要があります。

 1つめの事務所を辞めた頃、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)という本を読みました。以前、Twitterでは紹介したことがある気がします。

 自己啓発本では、「自信をもつ」「自尊心を高める」ことの重要性が説かれている。最近では、社員の能力を発揮させるためには「心理的安全性」が重要だとされている。だがこれは、因果関係が逆だ。

 自尊心をもてるのは大きな人的資本(高い専門性)があるからで、それによって対立する相手の意見を尊重する余裕が生まれる。心理的安全性も同じで、それは上司や同僚の言葉遣いによって与えられるものではなく、相手の言葉に「脅威状態」で反応しない大きな人的資本が「安全性」をもたらすのだ。

 この箇所を読んで、なんだよ結局勉強しろってことかよ、と絶望するか、勉強すればマシになるのか、と希望を持つかは、人それぞれかもしれません。

 会社員をしていた頃と比較すると、弁護士は勉強すればするほど仕事に役立つ知識が身につくし、本屋さんに行けばいくらでも勉強するための本が売っているので、その点は恵まれているなと感じます。

自分の精神的健康状態を客観視する

 抽象的なことばかり書いてきたので、むかし何かの本で読んだ、少しだけ具体的な対処方法も書きます。

 自分の精神的健康状態を数値化して、定期的に記録する方法です。私は「メンタル健康指数」という100点満点の数値を1週間ごとに記録しています。むかし読んだ何かの本では、毎日、手帳に書き込むようにアドバイスしていました。

 これを続けることによって、「ランニングするとメンタル健康指数が少し上がるな」とか「友達と遊びに行くとメンタル健康指数がけっこう上がるな」とか「個人事件を終えるとメンタル健康指数が大きく上がるな」とか、何をすれば自分のメンタル健康指数がどれだけ上がるかが把握できるようになります。

運動する

 もっと具体的な対処方法としては、ランニングするのが効果的です。

 これは決して「身体を動かしてリフレッシュしよう!」という、気分の話ではありません。以前も別の記事で書きましたが、BDNFというタンパク質が、ニューロンの発生を助けてくれます。

<関連記事>・ランニングについて熱く語っている記事

 これによって、新しい発想が生まれます。思考の逃げ道が作られます。1つの「嫌なこと」ばかり考えて1か所をぐるぐる回っているところに、新しい脱出路ができるイメージです。

 私は1つめの事務所を辞めたばかりの頃、起き上がれないほどメンタルがやられてしまいました。少し回復して散歩できるくらいになり、さらに回復してランニングできるようになってからは、どんどん精神的に大丈夫になっていきました。

状況は変わると知る

 最後にまた、抽象的でよくわからない話をします。

 当たり前のことなんですが、状況は変わるんだ、ということを知っていると気が楽になります。「ゆく河の流れは絶えずして」です。「祇園精舎の鐘の声」です。

 どんなにどうしようもないと思っていた訴訟でも、突然相手方が変な証拠を出してきて自爆してくれることもあります。どんなに解決方法が思い浮かばなくて悩んでいた事件でも、依頼者が新しい証拠を持ってきて、そもそも解決不可能であることが明らかになることもあります。

 いつまでも同じ状況が続くわけではありません。少なくとも私がこの1年間で担当した(大きめの)案件については、状況が変わらなかった案件はありません。良くも悪くも、思いがけない方向に展開していきました。

 だから楽観的に手を抜いていいよって意味ではないんですが、一所懸命やってるんだったら、そこまで悲観的にならなくても大丈夫じゃないかな、と思います。

 

 最後に。

 今年、BILLY JOELの“We didn't Start The Fire”を、FALL OUT BOYがカバー(というかリメイク)した曲を発表しました。ちょうど2つめの事務所に入ったばかりのころで、毎晩、帰り道に聴いていました。

We didn't start the fire. It was always burning, since the world's been turning.
We didn't start the fire. No, we didn't light it, but we tried to fight it.

 もともと好きな歌詞だったんですが、これ、弁護士にぴったりだなあ、と思いませんか。

 弁護士をやっていると、依頼者からめちゃくちゃ責められたりすることもあると思います。そういうとき、ああ、自分の頑張りが足りなかったかな、と思って落ち込んだり、自分を責めたりしたくなります。

 しかし、よほど通り魔的な犯罪被害者や交通事故被害者でもない限り、そもそもトラブルに巻き込まれたことについて、本人の落ち度があったりします。仮に依頼者にまったく落ち度がない事件であっても、別に弁護士のあなたが責められる筋合いはありません。

 世の中、誰かが必ず責められなければならないわけではありません。あんまり自責の念に駆られることなく、But we tried to fight itくらいの気持ちで取り組んでいいんじゃないかと思っています。

 

 長々と書いてきましたが、半分くらいは自分に向けて書いた独り言みたいでしたね。すみませんでした。

 この記事を読んでくれた方が健康的に弁護士を続けられることを祈っていますし、将来この記事を読み返した自分が楽しく弁護士を続けていることを祈ります。

 

十一月の勝者

サイトマップ(2023年11月現在)


※以下、雑記です。

 今月、司法試験の合格発表がありました。もしこの文章を読んでいる方のなかで合格された方がいたら、本当におめでとうございます。苦しい受験生活、本当にお疲れ様でした。

なぜって、苦しみこそが人生だからですよ。苦しみのない人生に、どんな満足があるっていうんです。何もかもが、果てしないひとつの祈りと化してしまいますよ。そりゃあ神聖だろうけれど、ちょっと退屈でしょうね。

 司法試験の合格発表の時期が2か月ズレた結果、その直後に、前年度合格者の二回試験が訪れることになったようです。Twitter上で76期の先輩方が阿鼻叫喚のツイートしているのをみて、77期の合格者はテンションが下がったかもしれません。
 でも安心してください。75期の私に言わせれば、二回試験なんてただの試験です。実戦に出てからが本物の地獄の始まりですからね!


 …冗談は縦置き。
 例年、司法試験の合格発表があった月に、当ブログのサイトマップ(上記リストのことです)を更新していました。2か月ズレましたが、今年も更新しておきました。
 数えてみると、この1年間で7つの記事しか更新できていなかったようです。真の地獄を味わっている同期の話を聞いていると、私はブログを更新したりTwitterを更新したりできているだけ、恵まれた労働環境なのかもしれません。
 昨年、サイトマップを更新した際に「司法修習に関する記事を書きたい」と宣言して、一応、宣言どおりに司法修習に関する記事を書けました。

 さて、これからどうしようか。
 当ブログは「読書ブログ」のつもりで始めたので、面白かった本があれば紹介したいなとは思っています。ただ、それが難しいんですよね。
 弁護士になると、自由度が飛躍的に上がって、みんなのやることがバラバラになります。ゼルダの伝説シリーズでいうと、チュートリアル的なダンジョンが終わって、オープンワールドハイラル平原に放り出されるようなものです。
 司法試験も司法修習もみんな平等に同じ道を歩かなきゃいけなかったので、私も本を紹介しやすかったです。私が有益だと思った本はみんなも有益だと思うだろう、という推定が容易に働きました。
 しかし、弁護士になった途端、やることが10人いたら10通りある状態になるので、私の興味があるテーマで本を紹介しても、あんまり面白くないんじゃないかと思ってしまうのです(誰か『限定承認後の財産管理人による破産申立て』とか『獣医療広告ガイドラインにおける広告該当性判断』とか興味がありますか?)。

 というわけで、今までみたいな「みんなに役立つ本をご紹介!」という記事は少なくなるかもしれません。この記事みたいに、ダラダラと書き連ねる雑記が多くなるかもしれません。
(ちなみに、直近で書きたいなと思っているのは、「弁護士1年目を終えて思う、弁護士1年目を精神的に健康に過ごすためのコツ」みたいな記事です。)


(Pixabayからのイメージ画像)

 これも毎年恒例なのでやっておきます。訪問者とページ閲覧の集計。
 2年前にサイトマップを作った時点では、約1,100名の訪問者、約6,300のページ閲覧だったようです。1年前にサイトマップを作った時点では、約10,200名の訪問者、約42,900のページ閲覧。
 そして今回集計したら、約25,000名の訪問者、約85,800のページ閲覧でした。集計期間が2か月長いので単純比較できませんが、7記事しか更新していないわりには急激に増えたように感じます。
 ちなみに訪問者の約42%が検索流入、約32%がソーシャル(おそらく全部Twitter)、約21%が直アクセスでした。

 できるだけTwitter上ではTwitterの話をしないようにしているんですが、いつもTwitterでいいねしてくださったり、リツイートしてくださってありがとうございます。
 そしてあまりTwitterにはログインしていないんですが、時間があるとき、リツイートしてくれた方のツイートを眺めたりして、感謝のテレパシーを送っています。
 そうは言ってもアイデンティティは「ツイッタラー」ではなく「ブロガー」なので、ブログの記事を読んでもらっていることが一番うれしいです。こんなダラダラ書いた雑記を最後まで読んでくださって、ありがとうございました。


被疑者国選弁護人の備忘録

【読むとよいタイミング】司法修習〜弁護士1年目

 

 当ブログはタイトルに「備忘録」と入れておきながら、あんまり本当に備忘録っぽい記事を書いてきませんでした。

 どんな仕事でも同じかもしれませんが、「1回経験すればわかるし、2回目以降は全然困らないけど、調べても全然(あるいは絶対に)わからない知識」ってありますよね。私はいちいちそういう心配事で眠れなくなります。

 刑事弁護は、民事弁護に比べると、やるべきことが定型化しています。その分、やるべきことをやらないとマズいことになります。というわけで、国選弁護に関する備忘録を残そうと思いました。

 弁護士会の研修を悪く言うわけじゃないですが(と言いながら悪く言いますが)、新人向けの研修って、なぜかスピリット系の話や苦労話や武勇伝ばっかりで、新人が不安に思っている実務的な知識を全然教えてくれないですよね。

 東京だとあんまり国選の待機日が回ってこないので、本当に自分のための備忘録として書いてあります。

 なぜこんなに「備忘録」という点を強調しているかというと、「あくまで備忘録として書いてあるものだから、内容が少し間違っててもあんまり責めないでね?」という予防線です。Twitterをみてると、刑弁界隈の方々はめんd…熱心なイメージがあるんですよね。あんまり責めないでください…

 ただ、間違いを指摘して頂いたり、新たな知見を得たりした場合には、記事の内容を随時修正しようと思っています。

 ちなみに、弁護活動の中身については何も書いていません。必要なことはすべて『刑事弁護ビギナーズ』に書いてありますので…

 

目次

国選の打診

 何はともあれ、物語は法テラスからの電話で始まります。15時以降は電話に出られないとパスされるらしいですが、15時前までは自分が不在でも事務所の誰かが出てくれれば折り返しの電話でOKです。

 あとで詳しく書きますが、警察署に接見に行くには夜まで待たないといけませんから、日中は普通に業務の予定を入れても問題ありません。15時以降でも、電話に出られる状態であれば打合せなどを入れて問題ありません。(私は最初、何も知らずに一日中予定を空けていました。)

 法テラスからの電話を受けると、被疑者の名前と被疑事実の概要を告げられ、「大丈夫ですか?」と訊かれます。「大丈夫も何も、断れないんでしょ?」とキレてはいけません。その場で、事務所のシステム等を利用して、利益相反があるかないかを確認して返答しましょう。

選任書の受領

 国選弁護人は裁判所から選任されるものなので、裁判所から「選任書」を受領しなければいけません。東京の場合、東京地裁刑事14部です。

 ただ、これは裁判所から電話がかかってきて、「取りに来てね。職印を忘れずに持ってきてね」と言われるので、忘れることはないと思います。

 刑事14部の場所は東京地裁の1階、司法協会や弁護士控室がある辺りです。自分の名前を名乗って、「取りに来ました〜」と言うだけです。郵送してくれ。

 原本を使う機会はありませんが、報告や謄写申請、準抗告の際に写しを使うことになるので、失くす前にさっさとスキャンしておきましょう。

(pixabayからのイメージ画像)

初回接見

 東京では、選任された当日に接見に行かなくてはいけません。実務修習地の某県では、2日後に行っても何のお咎めもありませんでした。地域差があるようです。

 持ち物について不安になるかもしれませんが、国選の場合、最低限、弁護士バッジ(か弁護士身分証)だけ持って行けば大丈夫です。

 私はとりあえず、被疑者に説明するために、刑事手続の流れが書いてある図を印刷して持って行っています。

→ 日本弁護士連合会:刑事手続の流れ

 あと、日数計算が苦手なので、卓上カレンダーを拡大コピーして、あらかじめ勾留満期や勾留延長があった場合の満期などを全て書き入れてから接見に行っています。

 経験豊富な被疑者から「せんせ〜、そんなん全部知ってるよ」と言われたこともありますが、まあ、念のため。

接見の予約

 接見に行く前には、警察署の留置係に電話をかけて、被疑者がいるかどうかを確認します。勾留されている警察署の代表電話に電話して、「弁護士ですけど留置係お願いしゃす」と伝えると回してくれます。

 東京の場合、選任された当日(≒勾留決定の日)、被疑者は午後6時半ごろまでに警察署の留置施設に帰ってきます。

 これは経験豊富な被疑者から教えてもらった話なのですが、朝、警察車両が各地の警察署に寄って被疑者をピックアップして検察庁や裁判所に連れて行って、全員の用事が終わったら、夕方、またみんなで警察車両に乗って各地の警察署に帰されるらしいです。えんそk

 勾留決定の日には裁判所に行っていますが、その後もちょこちょこ検察庁に連れて行かれたりするので、初回接見に限らず、接見に行く前には電話で確認する必要があります。

 私は留置係の警察官に「接見に行っても大丈夫ですか?」と質問していましたが、意地悪な警察官は「大丈夫か訊かれても知りませんよ」などと言ってきます(体験談)。親切な警察官は「今日は取調べがないので大丈夫ですよ、20時半ごろに風呂に入れたいので、それまでに来てもらえるとありがたいですね」などと教えてくれます。

(pixabayからのイメージ画像)

接見資料の受領

 私はこんなことすら知らなかったのですが、被疑者国選の場合、接見の回数(など)に応じて報酬が決まります。そのため、のちのち、接見に行った証拠を法テラスへ提出する必要があります。

 接見室の前で接見の申込用紙を書く際、接見資料という複写式の紙を敷いて必要事項を記入します。申込用紙は警察官に渡して、接見資料は持ち帰ります。

 これをあらかじめセッティングしておいてくれる警察官もいれば、お願いしないと接見資料をくれない警察官もいます。ただ、これは別に警察官の意地悪ではありません。起訴後は接見資料が不要になるので、警察官側もそこまでの事情は知らないんですよね。

担当検事の確認

 勾留決定をした裁判官の名前は勾留状(法テラスからFAXで送られてきます)に書いてありますが、担当検事の名前は資料に書いていないので、自分で調べる必要があります。

 東京地検の代表電話に電話をかけて、「国選で配点された事件の担当検事を知りたいのですが」と告げると、担当の部署に繋いでくれます。被疑者の名前、事件名(●●被疑事件)、留置されている警察署の名前を伝えると、担当検事と担当事務官の名前と内線番号を教えてくれます。

 担当検事にどんなタイミングで連絡して、どんな話をすればいいかは、『刑事弁護ビギナーズ』に書いてあります。

担当警察官の確認

 次に調べる必要がある(必要がない事件もある)のは、捜査を担当している警察官の名前です。

 以前、担当検察官を確認するのと同じノリで警察署に電話で問い合わせたことがあります。しかし「電話口にいるのは先生本人ですか? 本当ですか? それが確認できない以上、教えられません」と言われて断られました。

「いったいどこの変態が国選弁護人のフリして担当警察官の名前を確認するんだYo!」とキレそうになりましたが、まあ、たしかに組織犯罪とかであればあり得ない話でもないか…思ってガマンしました。

 なので、初回接見の際、被疑者に確認するか(「取調べを担当した警察官の名前を覚えてませんか?」)、被疑者が覚えていなければ留置係の警察官に聞いておくようにしています。たぶん担当検察官に訊いても教えてくれるのではないかと思っているのですが、試したことはありません。

準抗告

 被疑者国選の段階で弁護人が最も注力するのは、身体拘束からの解放ではないかと思います。準抗告なのか勾留取消しなのか…みたいな話については『刑事弁護ビギナーズ』に書いてあります。

 勾留決定に対する準抗告をするケースが多いと思うので、その方法について少し書いておきます。東京地裁の場合、1階の刑事14部ではなく、11階の刑事訟廷事務室の事件係に申立書を提出します。

 申立書を持って行くと、選任書を見せてください、と言われ、その場でコピーを取られます。ただ、選任書には事務所の電話番号しか書いていません。決定は夜遅くに出ることも多いので、申立書に携帯電話の番号を書いておくといいのではないかと思います。

起訴後の話

 無事に準抗告が通って釈放されたり、不起訴で終わったりすればいいんですが、起訴されるとまだまだ仕事が続きます。被告人国選です。

 が、記事が長くなってきたので、ここで一旦やめますね。

 法テラスから口酸っぱく言われるので忘れないとは思いますが、不起訴で終わろうが起訴されようが、その時点で一旦、法テラスに報酬請求をする必要があります。必要書類をFAXすると、何日か後に報酬算定表がFAXされてきます。

 起訴後の話で1点だけ、私が最も不安だったことを先取りして書いておきます。

 公判期日について、「国選だから、指定された公判期日が差支えでも行かなきゃ怒られるのかな?」などと勝手に不安になっていました。が、起訴されて1週間くらいすると、書記官から電話がかかってきます。きちんとこちらの予定を確認してから期日指定してくれますので、ご安心ください。

おまけ

 かつて東京弁護士会が『実践刑事弁護』(現代人文社)という本を出版していました。

 この本には、東京拘置所の接見可能な時間帯が載っていたり、謄写にかかる費用が載っていたり、東京地裁の仮監置室の地図が載っていたりして、私が欲していた理想の本に最も近いです。が、残念ながら、被疑者国選ではなく被告人国選のことしか書かれていません。

 それはこの本の初版の発行が2006年だからです。

 そもそも被疑者国選の制度が始まったのが2006年で、2009年から「長期3年を超える懲役や禁錮」の事件まで拡大され、2018年にようやく勾留されたすべての事件に拡大されました。今ではあんまり想像できないですが、最近(?)まで被疑者国選はそんなにメジャーではなかったんですね。

 ちなみにこの本、初めて国選弁護を担当する三平弁護士が悪戦苦闘するようすが描かれていて、読み物としてもなかなかおもしろいです。
 三平くんは、公判で堂々と検察官側の席に座っちゃったり、国選報酬の安さに文句を言ったり、被告人の妻から渡された菓子折りを「国選なので…」と言って断りつつ最終的にちゃっかり受け取ってしまったりするところに好感が持てます。
 ボスは、厳しくも優しく丁寧に指導してくれる、イソ弁の妄想を具現化したような弁護士です。事務員の陽子さんと三平くんのほんのりロマンスを匂わせるやりとりも絶妙に心温まります。
 ただ、三平くん、判決言渡し後に「僕はやっぱり刑事事件が好きだ。」とかセンチメンタルに言ってしまうあたり、親友にはなれないなあ、と残念に思います。いいやつなんだけど。

 

 この本の姉妹本として、ひとみ弁護士の奮闘を描いた「当番弁護士編」もあります。当番弁護士について備忘録を書くことがあったら、また詳しく紹介するかもしれません。

 

 そして今、三平くんやひとみさんについて調べていて初めて知ったのですが、2018年には『新・実践刑事弁護』(現代人文社)が出版されたみたいです。

 どうやら、三平くんとひとみさんがフュージョンして昇平くんになったようです。どんな人格になっているのか気になったので、注文してみました。読んだらまた感想を書くかもしれません。

 

 備忘録だけ書くつもりが、思いのほか、文字数の多い記事になってしまいました。まだまだ文字を読む元気のある方がいたら、修習生の頃に読んだ刑事弁護関連の本をまとめた記事もあるので読んでみてください。

article23.hatenablog.jp