司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

100%の努力

※この記事は司法試験や勉強法と無関係です。

 先日、紀伊国屋書店 札幌店に行ったところ、売上げランキングNo.1が『1%の努力』(ひろゆきダイヤモンド社)でした。帯のひろゆきの写真と目が合って一瞬ひるんでしまいましたが、せっかくなので、買って読んでみました。

 

目次

 

自己啓発本の「お作法」

 自称・自己啓発本マニアの私の感想は「ひろゆきもこんな自己啓発本っぽい本を書けるんだ…」という驚きです。

 あまり自信を持って言い切れないのですが、自己啓発本にはある種の「セオリー」というか「お作法」のようなものがあると考えています。すなわち、自己啓発本には以下の要素が欠かせない。

(1)自分の体験談(失敗体験→成功体験)
(2)本や映画、論文等からの引用
(3)読者を良い気分にさせる教訓

 この本にはこれらすべての要素が万遍なく、過不足なく散りばめられていました。

 本題ではないので深く掘り下げませんが、私もいつかダイヤモンド社から自己啓発本を出版してもらうのが夢なので、この「お作法」についてはそのうち真剣に整理したい(そしてマスターしたい)と思っています。

TFT戦略のすすめ

 さて、本題。この本には全部で49個の「ひろゆきの思考」が披露されています。

ひろゆきの思考19「やられたときだけ、やり返す」

 ゲーム理論の有名な思考実験に「囚人のジレンマ」というものがあります。舞台はアメリカ。住居侵入は証拠があるものの、強盗の確証が得られていない状態で、甲と乙の2人が別々に警官の取り調べを受けています。そして、警官は2人に対して司法取引を持ちかけます。

 2人とも黙秘し通せば微罪の住居侵入だけで起訴されて懲役1年で済みますが、2人とも自白してしまうと重罪の強盗で起訴されて懲役5年。どちらか一方だけが自白した場合、自白したほうは司法取引で不起訴にしてもらえますが、黙秘したほうは情状酌量されずに懲役10年。

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 乙の立場から見ると、赤の矢印の通り、甲が黙秘しようが自白しようが、乙は自白してしまったほうが罪が軽くて済みます(得られる「利得」が多い)。甲の立場から見ても同様です。そうすると、甲も乙もまんまと自白してしまい、警官は強盗の自白を得ることができました。めでたしめでたし…

 このゲームを1回だけ行うと、自白する(=相手に対して非協力)ほうが正しい戦略のように思えます。しかし、複数回ゲームが行われる状況になると、必ずしも非協力を続ける戦略が正しいとは言えないようです。

 囚人のジレンマでは懲役の年数に従って行動を選択していましたが、甲と乙がそれぞれ得られる利得(メリット)を点数化し、同じ相手とゲームを複数回行い、合計獲得点数を競う競技会が開催されました。すると、優勝したのは「しっぺ返し戦略(Tit For Tat)」、略してTFT戦略。

 戦略の中身はとてもシンプルです。

◆ 初回のゲームでは必ず「協力」を選ぶ
◆ 2回目以降のゲームでは、前回のゲームで相手が「協力」ならば自分も「協力」を選び、前回のゲームで相手が「非協力」ならば自分も「非協力」を選ぶ

 これを一言で言い表したのが、先ほどの「ひろゆきの思考19 やられたときだけやり返す」です。

 私は大学生の頃にゲーム理論にどハマりして以来、人生でもTFT戦略を取ると明言して生きてきました。しかしあるとき、当時の恋人にこのような戦略を熱弁したところ、気味悪がられてしまった(ドン引きされた)ため、個人的に封印して生きていました。

 それが今、遥かなる時を超え、まさか同じような思考をする人間とこのような形で巡り会えるとは… その感動を書き残しておきたくて、こんなだらだら長々と文章を書いてしまいました。

スマート礼賛社会の新たな英雄?

 さて、ここからはおまけ。なぜこの本はこんなに売れているのでしょうか? なぜひろゆきの切り抜き動画がこんなに再生されているのでしょうか?

 ここで別の本を紹介したいと思います。10年ほど前に「双方向っぽい授業」ブームを巻き起こしたマイケル・サンデル教授の新刊『努力の運のうち』。メリトクラシー能力主義/功績主義)を批評した、とてもおもしろい本です。

 この本のなかで、アメリカ大統領の演説で用いられる単語を分析した結果として、「正しい/正義」に替わって、「スマート」という単語が用いられる回数の増加が指摘されています。スマートデバイス、スマートシティ、スマートカー…

 そんな「スマート」に生きることが礼賛される現代社会において、ひろゆきがある種のロールモデルとして人々には輝いて映っているのではないか…なんて言ったら言い過ぎでしょうか。

 『1%の努力』を読んでいると、まさしく本のタイトルが示している通り、汗臭く努力するのではなく、スマートに生きる方法がわかったような気になれます。(しかも、努力する人間を嘲笑するのではなく、あくまで自虐的を交えつつ冷笑するような語り口も上手ですよね。)

・・・

 ちなみに私は「自分で設定した目標に向かって努力するプロセス」に対してジャンキーになっているので、努力が大好きです。努力最高! 努力万歳! そんな私でもおもしろく読める、見事な自己啓発本でした。