【読むとよいタイミング】暗記がつらくなってきたとき
人生を変えた1冊は何か、と問われたら、私は『数学は暗記だ!』(和田秀樹/ブックマン社)をあげます。この本がなければ、算数の苦手な私は永遠に国公立大学に進学できていませんでした。
具体的な方法論はともかく、「もう、わからないなら暗記してしまえばいいじゃないか」という精神論(心の支え)として、この本は勉強に悩むすべてのひとの役に立つ本だと思います。
そんなことを言うと、「理解できなければ意味がない!」「詰め込み教育の弊害!」「ナンセンス!」という野次がどこかから聞こえてきそうですが、暗記は理解のための補助ツールだと私は考えています。
少し話は変わりますが、司法試験では、ざっくり分けると「現場思考の問題」と「典型論点の問題」が出題されます。選択科目の労働法では長らく典型論点の問題の出題が続いていて、論証を暗記していれば、何も考えずに解ける問題ばかりでした。
しかし、令和2年の労働法第2問では、問われている内容のほとんどが現場思考で、事前に論証を暗記しても解けないような問題が出題されました。論証を暗記する受験生のことが大嫌いな試験委員のことですから、さぞかしご満悦だったんだろうな…と思って試験後の採点実感を読んでみると、こんなことが書かれていました。
本問では,確立した判例法理が存在するわけではなく,多くの受験者にとって初見と思われる論点も織り込み,未知の問題に対応する柔軟な思考・適応能力を問うた。(略)未知の論点について深い考察と正確な論証が示された答案は,基本的な論点についても本質を捉えた正確な論証が示されている傾向にあった。
(法務省 令和2年司法試験の採点実感・労働法より抜粋)
このメッセージをどう受け取るかは人それぞれかと思います。私は「基本的な論点について正確な論証を暗記している受験生」=「未知の論点について深い考察ができる受験生」ってことじゃないか、と受け取りました。
ずいぶん話が遠回りしましたが、「理解できなければ暗記しても意味がない」のではなく、「暗記できなければ理解できない」のではないか、ということを伝えたかったのです。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、ここからが本来書こうと思っていた内容です。暗記術を学ぶにはどの本を読むべきなのでしょうか?
目次
- 1. 『脳にまかせる勉強法』(池田義博/ダイヤモンド社)
- 2. 『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア/エクスナレッジ)
- 3. 『記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック』(ドミニク・オブライエン/エクスナレッジ)
- 4. 補足
1. 『脳にまかせる勉強法』(池田義博/ダイヤモンド社)
最初に読むならこの本でしょうか。日本人の記憶力競技(メモリースポーツ)の選手が日本語で書いた本なので、後述の2冊よりは読みやすいと思います。イラストもあって、余白もたっぷり。
2. 『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア/エクスナレッジ)
ジャーナリストの著者が記憶力競技の大会に挑む様子が、ルポタージュ風に書かれています。ノンフィクションを読みなれているのであれば、内容もすんなり頭に入ってくると思うので、この本から読むことを勧めます。
3. 『記憶に自信のなかった私が世界記憶力選手権で8回優勝した最強のテクニック』(ドミニク・オブライエン/エクスナレッジ)
本のタイトルにもある通り、8回も優勝しているだけあって、かなり確立されたノウハウが具体的に書かれています。実際にそのノウハウを試すことができるような設例もついているので、本格的に記憶術を知りたい、という場合にはおすすめ。
4. 補足
この3冊はもちろん、それ以外の記憶術の本でもだいたい最優先で紹介される「場所法(記憶の宮殿・ジャーニー法)」は、司法試験ですぐに役立つテクニックだとは思いません。残念ながら、脳内にある思い出の場所をのんびり歩いている時間的な余裕が無いからです。
ただ、暗記と真剣に向き合う彼らから学べることはたくさんあるはずです。「空間的なイメージで覚える」「記憶に残りやすい性的・暴力的なイメージを使う」「試験前は飲酒を控える」「サプリメントの力を借りる」といったノウハウは今すぐに役立つでしょう。
長くなってきたのでそろそろやめますが、これらの本を読むメリットとして、暗記に対するモチベーションが高まる点も指摘しておきたいと思います。「暗記なんてしてどうするんだよ〜」というツッコミに対するドミニクさんのコメントがおもしろいので、最後に紹介させてもらいます。
彼の意見には同意しないけれども、2000桁の数字や20組のトランプを憶えて何になるのかという気持ちはわかる。でもそれなら、400メートルトラックを全速力で走るのは何のためだろうか。いい大人が11人で1個のボールを反対側のネットに入れようと必死になって、もう11人がそれを阻止するのに躍起になっているのは何のためだろう。