司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

憲法記念日

【読むとよいタイミング】論文式試験の前

 

「この答案はF評価だね」と君が言ったから、一月二十二日は憲法記念日

 

 新聞の憲法記念日特集を読みながら、アホみたいな短歌を思いつきました。1月22日というのは、予備試験の論文式試験の成績のハガキが届いた日です。成績表は憲法が一番上に載っていますので、私は「F」の文字を見て、合格発表後なのに「落ちた…」とショックを受けたことを覚えています。

 まあ、1科目くらいF評価があっても予備試験は通過できます。会社の同期から「確かに、人権感覚が欠如していそうだもんね」と笑われてしまいましたが、今となっては良い思い出です。

 というわけで、悪天候のためお出かけの予定も無くなってしまったので、だらだらと「試験科目としての憲法」について書きます。

目次

予備試験前の勉強

 実は、予備試験の結果が出る前まで、答練や模試で、憲法は「得意科目」でした。予備校が公表する「模範解答」を研究して、それに近い答案をいつも書いていたので、いつも当然に高得点を取れていたからです。

 そのため、予備試験前にはそんなに憲法の対策をしていませんでした。普通に予備校の講座を受講していただけです。

 ただ、予備試験の延期が決まった後、やることがなくなってしまったため、演習本を1冊読みました。予備校の職員さんに紹介してもらった『事例問題から考える憲法』(有斐閣)です。

 この本を読むと、憲法が問題となる未知の事例に対して「何条(どの権利)の問題なのか?」を判断する能力が養われます。「権利の設定を間違えると減点が大きい」などと言われますが、それを失敗せずに済んだのはこの本のおかげだったかもしれません。

司法試験前の勉強その1

 そして、満を持して、自信満々で受けた予備試験。結果はF評価でした。

 最近、受験生の答案を添削をする側にまわって実感したのですが、憲法は非常に採点しづらいです。論理的に正しいけど経験則が常識外れの答案。エモーショナルで感動的だけど問題文から乖離した答案。いろんな答案があります。結局、模範解答に近い無難なことが書いてある答案を高得点にしてしまいます。

 しかし、司法試験や予備試験の採点者が好む答案は、私の書いたようなものではありませんでした。(こういうとき、再現答案を晒せばわかりやすいんだろうな〜とは思いつつ、予備校と「他所には晒さない」という約束をしたので、晒せません。F評価の答案なんて晒しても全く影響なさそうですが、まあ、約束は約束なので…)

 というわけで、私の中で「模試で評価される答案 ≠ 本番で評価される答案」ということが明確になったので、司法試験に向けて、「本番で評価された答案」を読むことにしました。買ったのは、辰巳が出版している『ぶんせき本』です。

 このシリーズに掲載された答案のうち、公法系の点数が高いものを数年分すべて読みました。私はとにかく他の受験生が書く文字数の多さに驚きましたが、それ以外にも、読んでいると様々な共通点を見つけることができます。

 一例だけあげると、評価が高い答案は、問題となる権利をかなり細かく具体的に設定していることがわかります。「集会の自由」などと設定せず、「顔を隠してデモ行進に参加する自由」と設定するのです。そうすると、権利の重要性や制約の程度に関する論述も、連動して具体的になります。自分がこれまでいかに類型的で表層的で浅薄な論述をしていたかを痛感しました。

司法試験前の勉強その2

 先ほどあげた『事例で考える憲法』は大変勉強になりますが、残念ながら「模範解答」は載っていません。私は予備試験で叩きのめされて、もう一体どんな答案を書けばいいのか全くわからなくなってしまっていました。そのため、きちんと「模範解答」が載っている本を読むことにしました。受験生おなじみの『憲法ガール』シリーズ(法律文化社)です。

 この本で示されている模範解答は、予備校が出している模範解答とは大きく異なるものでした。この本からは、判例を意識して答案を書くことの必要性を学びました。判例の結論に肯定的な考えであれ否定的な考え方であれ、とにかく「判例の示した規範」という共通認識をもとに議論を組み立てないと、ただの作文になってしまいます。

 ちなみに、この本のラノベ部分は冒頭だけ読んで全身が痒くなってしまったので、ほとんど読み飛ばしました。模範解答と解説部分だけでも十分楽しめますので、もしイラストなどに抵抗感がある方も、あまり「食わず嫌い」せず、気軽に読んでみてください。

 

 このほか、司法試験の出題趣旨や採点実感を何度も読み返しました。(最後に紹介してしまいましたが、これが一番大事な対策だったかもしれません…)

 予備試験の結果発表から4か月弱、いろいろな対策を試みた結果、司法試験の公法系第1問はA評価でした。こんな短期間で人権感覚を養えたわけではないと思うので、おそらく、小さな心掛けの積み重ねの成果だったのだと思っています。めでたしめでたし。

おまけ

 時系列が前後しますが、予備試験の論文式試験が終わった後、結果が出るまでの間に読んだ本を2冊紹介します。(まさかF評価だとは夢にも思わず、これ以外にも憲法関連の本を3冊も読んでいましたとさ…)

 1冊目は、木村草太氏の『憲法という希望』(講談社)です。選択的夫婦別姓や沖縄の基地問題などの具体的な社会問題を題材に、憲法の使い方・活かし方が解説されています。

 この本は、市民に向けて行われた講演がベースになっているため、とても読みやすいです。「安倍政権」や「辺野古」などのワードが懐かしくなり始めている昨今、新鮮な気持ちで読めるかもしれません。

 ちなみに、この本には、かつてNHKの「クローズアップ現代」のキャスターをしていた国谷裕子さんとの対談も収録されています。私は国谷キャスターのファンだから…という理由でこの本を読みました。対談部分もとても面白かったです。

 

 次に紹介するのは、井上達夫氏の『リベラルのことは嫌いでも、リベラリズムは嫌いにならないでください』(毎日新聞出版)です。私はこういう“狙った”書名は嫌いなんですが、本の中身まで嫌いになりませんでした。むしろ、昨年読んだ本の中でもトップクラスに面白かったです。

 通称『リベ・リベ』は、続編として『憲法の涙』(毎日新聞出版)という本が出版されています。前作に比べると内容が細かく詳しくなっているので若干読みにくいですが、前作が楽しめた方は間違いなく楽しめると思います。

 井上達夫さんは、言わずと知れた、法哲学の第一人者です。私はお恥ずかしながら、法律の勉強を始めるまで名前も存じ上げませんでした。法哲学なんぞ司法試験には直接関係ない分野ではありますが、知っておいて損はないと思います。

 そして、このシリーズを読めば、憲法9条なんて削除したほうがいいんじゃないか…と思うようになります。まあ、ただ、「護憲」とか「改憲」とか言い始めると、憲法記念日っぽい記事になってしまうので、その話はやめておきますね。