司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

被疑者国選弁護人の備忘録

【読むとよいタイミング】司法修習〜弁護士1年目

 

 当ブログはタイトルに「備忘録」と入れておきながら、あんまり本当に備忘録っぽい記事を書いてきませんでした。

 どんな仕事でも同じかもしれませんが、「1回経験すればわかるし、2回目以降は全然困らないけど、調べても全然(あるいは絶対に)わからない知識」ってありますよね。私はいちいちそういう心配事で眠れなくなります。

 刑事弁護は、民事弁護に比べると、やるべきことが定型化しています。その分、やるべきことをやらないとマズいことになります。というわけで、国選弁護に関する備忘録を残そうと思いました。

 弁護士会の研修を悪く言うわけじゃないですが(と言いながら悪く言いますが)、新人向けの研修って、なぜかスピリット系の話や苦労話や武勇伝ばっかりで、新人が不安に思っている実務的な知識を全然教えてくれないですよね。

 東京だとあんまり国選の待機日が回ってこないので、本当に自分のための備忘録として書いてあります。

 なぜこんなに「備忘録」という点を強調しているかというと、「あくまで備忘録として書いてあるものだから、内容が少し間違っててもあんまり責めないでね?」という予防線です。Twitterをみてると、刑弁界隈の方々はめんd…熱心なイメージがあるんですよね。あんまり責めないでください…

 ただ、間違いを指摘して頂いたり、新たな知見を得たりした場合には、記事の内容を随時修正しようと思っています。

 ちなみに、弁護活動の中身については何も書いていません。必要なことはすべて『刑事弁護ビギナーズ』に書いてありますので…

 

目次

国選の打診

 何はともあれ、物語は法テラスからの電話で始まります。15時以降は電話に出られないとパスされるらしいですが、15時前までは自分が不在でも事務所の誰かが出てくれれば折り返しの電話でOKです。

 あとで詳しく書きますが、警察署に接見に行くには夜まで待たないといけませんから、日中は普通に業務の予定を入れても問題ありません。15時以降でも、電話に出られる状態であれば打合せなどを入れて問題ありません。(私は最初、何も知らずに一日中予定を空けていました。)

 法テラスからの電話を受けると、被疑者の名前と被疑事実の概要を告げられ、「大丈夫ですか?」と訊かれます。「大丈夫も何も、断れないんでしょ?」とキレてはいけません。その場で、事務所のシステム等を利用して、利益相反があるかないかを確認して返答しましょう。

選任書の受領

 国選弁護人は裁判所から選任されるものなので、裁判所から「選任書」を受領しなければいけません。東京の場合、東京地裁刑事14部です。

 ただ、これは裁判所から電話がかかってきて、「取りに来てね。職印を忘れずに持ってきてね」と言われるので、忘れることはないと思います。

 刑事14部の場所は東京地裁の1階、司法協会や弁護士控室がある辺りです。自分の名前を名乗って、「取りに来ました〜」と言うだけです。郵送してくれ。

 原本を使う機会はありませんが、報告や謄写の申請の際に写しを使うことになるので、失くす前にさっさとスキャンしておきましょう。

(pixabayからのイメージ画像)

初回接見

 東京では、選任された当日に接見に行かなくてはいけません。実務修習地の某県では、2日後に行っても何のお咎めもありませんでした。地域差があるようです。

 持ち物について不安になるかもしれませんが、国選の場合、最低限、弁護士バッジ(か弁護士身分証)だけ持って行けば大丈夫です。

 私はとりあえず、被疑者に説明するために、刑事手続の流れが書いてある図を印刷して持って行っています。

→ 日本弁護士連合会:刑事手続の流れ

 あと、日数計算が苦手なので、卓上カレンダーを拡大コピーして、あらかじめ勾留満期や勾留延長があった場合の満期などを全て書き入れてから接見に行っています。

 経験豊富な被疑者から「せんせ〜、そんなん全部知ってるよ」と言われたこともありますが、まあ、念のため。

接見の予約

 接見に行く前には、警察署の留置係に電話をかけて、被疑者がいるかどうかを確認します。勾留されている警察署の代表電話に電話して、「弁護士ですけど留置係お願いしゃす」と伝えると回してくれます。

 東京の場合、選任された当日、被疑者は午後6時半ごろまでに警察署の留置施設に帰ってきます。

 これは経験豊富な被疑者から教えてもらった話なのですが、朝、警察車両が各地の警察署に寄って被疑者をピックアップして検察庁や裁判所に連れて行って、全員の用事が終わったら、夕方、またみんなで警察車両に乗って各地の警察署に帰されるらしいです。えんそk

 勾留決定の日には裁判所に行っていますが、その後もちょこちょこ検察庁に連れて行かれたりするので、初回接見に限らず、接見に行く前には電話で確認する必要があります。

 私は留置係の警察官に「接見に行っても大丈夫ですか?」と質問していましたが、意地悪な警察官は「大丈夫か訊かれても知りませんよ」などと言ってきます(体験談)。親切な警察官は「今日は取調べがないので大丈夫ですよ、20時半ごろに風呂に入れたいので、それまでに来てもらえるとありがたいですね」などと教えてくれます。

(pixabayからのイメージ画像)

接見資料の受領

 私はこんなことすら知らなかったのですが、被疑者国選の場合、接見の回数(など)に応じて報酬が決まります。そのため、のちのち、接見に行った証拠を法テラスへ提出する必要があります。

 接見室の前で接見の申込用紙を書く際、接見資料という複写式の紙を敷いて必要事項を記入します。申込用紙は警察官に渡して、接見資料は持ち帰ります。

 これをあらかじめセッティングしておいてくれる警察官もいれば、お願いしないと接見資料をくれない警察官もいます。ただ、これは別に警察官の意地悪ではありません。起訴後は接見資料が不要になるので、警察官側もそこまでの事情は知らないんですよね。

担当検事の確認

 勾留決定をした裁判官の名前は勾留状(法テラスからFAXで送られてきます)に書いてありますが、担当検事の名前は資料に書いていないので、自分で調べる必要があります。

 東京地検の代表電話に電話をかけて、「国選で配点された事件の担当検事を知りたいのですが」と告げると、担当の部署に繋いでくれます。被疑者の名前、事件名(●●被疑事件)、留置されている警察署の名前を伝えると、担当検事と担当事務官の名前と内線番号を教えてくれます。

 担当検事にどんなタイミングで連絡して、どんな話をすればいいかは、『刑事弁護ビギナーズ』に書いてあります。

担当警察官の確認

 次に調べる必要がある(必要がない事件もある)のは、捜査を担当している警察官の名前です。

 以前、担当検察官を確認するのと同じノリで警察署に電話で問い合わせたことがあります。しかし「電話口にいるのは先生本人ですか? 本当ですか? それが確認できない以上、教えられません」と言われて断られました。

「いったいどこの変態が国選弁護人のフリして担当警察官の名前を確認するんだYo!」とキレそうになりましたが、まあ、たしかに組織犯罪とかであればあり得ない話でもないか…思ってガマンしました。

 なので、初回接見の際、被疑者に確認するか(「取調べを担当した警察官の名前を覚えてませんか?」)、被疑者が覚えていなければ留置係の警察官に聞いておくようにしています。たぶん担当検察官に訊いても教えてくれるのではないかと思っているのですが、試したことはありません。

起訴後の話

 無事に不起訴で終わればいいんですが、起訴されるとまだまだ仕事が続きます。被告人国選です。

 が、記事が長くなってきたので、ここで一旦やめますね。

 法テラスから口酸っぱく言われるので忘れないとは思いますが、不起訴で終わろうが起訴されようが、その時点で一旦、法テラスに報酬請求をする必要があります。必要書類をFAXすると、何日か後に報酬算定表がFAXされてきます。

 起訴後の話で1点だけ、私が最も不安だったことを先取りして書いておきます。

 公判期日について、「国選だから、指定された公判期日が差支えでも行かなきゃ怒られるのかな?」などと勝手に不安になっていました。が、起訴されて1週間くらいすると、書記官から電話がかかってきます。きちんとこちらの予定を確認してから期日指定してくれますので、ご安心ください。

おまけ

 かつて東京弁護士会が『実践刑事弁護』(現代人文社)という本を出版していました。

 この本には、東京拘置所の接見可能な時間帯が載っていたり、謄写にかかる費用が載っていたり、東京地裁の仮監置室の地図が載っていたりして、私が欲していた理想の本に最も近いです。が、残念ながら、被疑者国選ではなく被告人国選のことしか書かれていません。

 それはこの本の初版の発行が2006年だからです。

 そもそも被疑者国選の制度が始まったのが2006年で、2009年から「長期3年を超える懲役や禁錮」の事件まで拡大され、2018年にようやく勾留されたすべての事件に拡大されました。今ではあんまり想像できないですが、最近(?)まで被疑者国選はそんなにメジャーではなかったんですね。

 ちなみにこの本、初めて国選弁護を担当する三平弁護士が悪戦苦闘するようすが描かれていて、読み物としてもなかなかおもしろいです。
 三平くんは、公判で堂々と検察官側の席に座っちゃったり、国選報酬の安さに文句を言ったり、被告人の妻から渡された菓子折りを「国選なので…」と言って断りつつ最終的にちゃっかり受け取ってしまったりするところに好感が持てます。
 ボスは、厳しくも優しく丁寧に指導してくれる、イソ弁の妄想を具現化したような弁護士です。事務員の陽子さんと三平くんのほんのりロマンスを匂わせるやりとりも絶妙に心温まります。
 ただ、三平くん、判決言渡し後に「僕はやっぱり刑事事件が好きだ。」とかセンチメンタルに言ってしまうあたり、親友にはなれないなあ、と残念に思います。いいやつなんだけど。

 

 この本の姉妹本として、ひとみ弁護士の奮闘を描いた「当番弁護士編」もあります。当番弁護士について備忘録を書くことがあったら、また詳しく紹介するかもしれません。

 

 そして今、三平くんやひとみさんについて調べていて初めて知ったのですが、2018年には『新・実践刑事弁護』(現代人文社)が出版されたみたいです。

 どうやら、三平くんとひとみさんがフュージョンして昇平くんになったようです。どんな人格になっているのか気になったので、注文してみました。読んだらまた感想を書くかもしれません。

 

 備忘録だけ書くつもりが、思いのほか、文字数の多い記事になってしまいました。まだまだ文字を読む元気のある方がいたら、修習生の頃に読んだ刑事弁護関連の本をまとめた記事もあるので読んでみてください。

article23.hatenablog.jp