【読むとよいタイミング】論文式試験の前
先日、令和4年度の司法試験があったそうです。受験された方々、本当にお疲れ様でした。つらい試験ですよね。人生でもう二度とこんな人権侵害をされることもないだろう…と思っている方々に朗報です。司法修習でさらなる人権侵害が待っています!
…冗談はさておき。
昨年から「伊藤真との対談のオファーが来ないなあ〜」と嘆いていたのですが、ついに最新の受験生ではなくなってしまったので、さすがに諦めました。
そして「そういえば『受験新報』の執筆依頼も来ないなあ〜」と思っていたら、どうやら2020年夏に休刊になっていたようですね。残念。
というわけで、勝手に書くことにしました。「オレ/ワタシの使った演習書」をドヤ顔で紹介する記事です。実はずっと憧れていたんです。
目次
- はじめに
- 1. 刑事訴訟法『事例演習刑事訴訟法』
- 2. 会社法『事例で考える会社法』
- 3. 行政法『事例研究行政法』
- 4. 刑法『刑法事例演習教材』
- 5. 民事訴訟法『基礎演習民事訴訟法』
- 6. 民法『民法演習サブノート210問』
- 7. 憲法『事例問題から考える憲法』
- 番外編 労働法『事例演習労働法』
- おわりに
はじめに
そもそも伊藤真信者なのに市販の演習書なんて使っていたのか、というツッコミが予想されますので、先に経緯を説明しておきます。演習書を「使った」と言えるほどのものではなく、ただ「読んだ」だけです。
2020年4月8日、司法試験と予備試験の延期が決まりました。
別に勉強のやる気を失ったわけではないんですが、なんというか、そわそわして勉強に集中できなくなってしまいました。あの初めての緊急事態宣言の感覚を思い出すのも難しいんですが、変な感覚でしたよね。
そんな状況のもと、もともと読書は趣味なので、まあ、読むだけなら気楽でいいか〜、と思って演習書を読み始めました。
以前、何かの記事でも紹介しましたが、河野玄斗氏の勉強法に関する本にはオススメの演習書も載っています。刑法・刑訴法・民訴法・行政法はそれを参考に買いました。残りの科目は、予備校の職員さんに紹介してもらった本です。
どの本も勉強になったから紹介するわけですが、せっかくなので、役に立ったと思う順番に紹介します。改訂前の版を読んだものも多いので、紹介されている設問数はあくまで参考値だと捉えてください。すみません。
1. 刑事訴訟法『事例演習刑事訴訟法』
最初に紹介するのは、古江先生の演習書です。この筆者は絶対にものすごく頭が良いんだろうな、ということがビシビシ伝わってくる本です。この本に感動したからこそ、他の科目も演習書を読んでみようと思えました。
全体的にオススメですが、個人的には「まえがき」に当たる部分が一番シビれました。一部だけ紹介すると、答案によく見られる「本件の令状は違法である。」「甲の自白は、自白法則により無効である。」といった文章の誤りを指摘した上で、次のように述べます。
A君:なるほど……。でも、えらく細かいなあ。
教員:実務法曹にとっては言葉が命なのだよ。これらは決して些細なことではない。実務法曹は、オリンピックの体操選手のように足のつま先まできちんと揃っていなければならない職業なんだ。
引用箇所を見てもらえればわかるとおり、この本は、対話形式になっているのが最大の特徴です。33個の設問について、A君とBさんと教員が延々と議論し続けます。私はこの形式がとても読みやすかったのですが、読みにくいと感じるひともいるようです。
ちなみに、先ほど、2つの「間違った文章」を紹介しましたが、どこが間違っているのかわかりましたか? 何の違和感もなかった、という方にこそ、ぜひ読んでほしい本です。
2. 会社法『事例で考える会社法』
いきなり長々と紹介しすぎたので、ここからは簡潔に紹介します。
この本は全部で25個の事例を解説したものです。大きな特徴として、事例1〜6に参考答案がついています。参考答案がついていない事例に関しても、いわゆる「論証」や「当てはめ」を意識した解説がなされているので、とても参考になります。
ただ、共著本のため、解説のわかりやすさにバラツキがあります。1人だけ、とても解説がわかりにくい先生がいます。自分の脳みそが壊れたんじゃないか…と不安になるくらい理解できない解説でしたが、某書評サイトでも同じ先生が名指しで批判されていたので、自分の脳みそが壊れたわけではないんだと思っています。
3. 行政法『事例研究行政法』
この本は、第1部から第3部まで分かれていて、それぞれ8問・17問・7問の事例問題を扱っています。
河野玄斗氏は「時間がなければ第1部の答案構成だけでもOK」という趣旨のことを書いています。確かに第2部、第3部と進むにつれて、マニアックな話が増えてきます。読み物としては最後まで面白いですが、受験対策という観点からは第1部を読むだけでも十分かもしれません。
私はこの本の第1部を読んでから、処分性とか原告適格について何もわかっていなかったんだな、ということにようやく気づけました。感謝しています。
4. 刑法『刑法事例演習教材』
この本の特徴は、設問数が48個と、とても多い点です。この本で紹介されている事例について論点がすぐに思い浮かぶくらいになれば、ひとまず司法試験までは安心だと思います。
他方、設問が48個もあるのにページ数が250ページくらいしかないので、一部、解説がとても簡素な設問があります。解説が簡素だから重要性が低い、というわけでもないので、わからない点は放置しないように気をつけましょう(添削者みたいに偉そうなことを言ってすみません)。
5. 民事訴訟法『基礎演習民事訴訟法』
全部で30個の論点について、それぞれいくつかの設問が載っています。それぞれの設問に関する解説があった上で、それぞれのテーマにおまけの発展問題までついています。共著本なので、解説のわかりやすさには若干のバラツキがあります。
全体的にわかりやすいし、網羅性もあるので、何も不満はないのですが、他の科目で紹介した演習書のような感動はありませんでした。(おそらく、私が民訴が一番好きな科目で、もともときちんと勉強していたからだと思います。)
6. 民法『民法演習サブノート210問』
他の科目で紹介した演習書と比較すると「演習書っぽさ」が足りないので、最後に紹介しています。この本は、タイトルにあるとおり「210問」について、問題が1ページ、解説も1ページにまとめられているものです。
予備試験よりも司法試験に顕著な特徴ですが、民法では「小テスト」のような設問が出題されます。私が受けた令和3年度の民法にも「指図による占有移転でも即時取得できるか?」という簡単な問題が含まれていました。(令和2年度は予備試験でも「後見人就任後に追認拒絶できるか?」という小テストみたいな問題が出ました。)
他の受験生に尋ねたことがないのでわかりませんが、民法だけは「全部の論点を網羅してるよ!」って胸を張って言える受験生がいないのではないでしょうか。この本で取り上げられている210問はほとんど全てが重要なものなので(少しだけ特別法がらみのマニアックな問題が含まれますが)、抜け・漏れがないかの最終確認のために読んでみてもいいと思います。
7. 憲法『事例問題から考える憲法』
憲法については、前回、詳しく書いたのでそちらの記事をご参照ください。
番外編 労働法『事例演習労働法』
今回は予備試験前に読んだ演習書を紹介する記事なので、労働法は「番外編」としておきました。ただ、救われた度合いとしてはトップです。以下の記事で詳しく紹介しているので、労働法選択の方はぜひ覗いてみてください。
と、ここまで書いて気づいたんですが、令和4年度からは予備試験でも選択科目が必要なんですね。選択科目で悩んでいる方にも役に立つかと思うので、よければぜひ覗いて見てください(しつこいですね、すみません…)。
おわりに
伊藤真信者としては、伊藤塾の『問題研究(過去問を含む)』と各種答練で扱う問題だけで、十分に論文式試験を通過できると思っています。では、演習書を読むメリットって何でしょうか?
それは、予備校の「論証パターン」以外の論証の仕方を知ることだと思います。こんな論述の仕方もアリなのか、ということを知ることで、論証の自由度が上がります。少し比喩的な表現になりますが、可動域が広がるイメージです。
また、反対説を丁寧に学習することで、自説の説得力が上がります。添削していると、「このひとは問題の所在がわかっていないな〜」という答案は(たとえ論証パターンを正確に書き写してあっても)すぐわかってしまいます。反対説を学習すると対立点が明確になりますので、少なくとも「問題の所在がわからないのに論証する」ということがなくなります。
そんなわけで、伊藤真信者が市販の演習書を読むメリットを総括すると、「恋人以外の異性とデートしてみて、あらためて恋人の素晴らしさを知る」みたいな感覚なんですが……あんまり良くない比喩ですよね。まあ、それに比べれば、演習書を読んでも誰からもバッシングされませんから、気分転換に1冊くらい読んでみてもいいんじゃないでしょうか。