司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

1年目の弁護士に宛てた手紙

【読むとよいタイミング】弁護士登録前

 

 12月8日、弁護士登録から1年が経過しました。これまでの人生のなかでも、かなりトップクラスに しんどい1年間でした。

 ふだんは本を紹介するブログなんですが、今回はだらだらと私見を述べるだけのつもりです。弁護士1年目を振り返って、「精神的に大丈夫になるためにはどうしたらいいか?」を考えます。文字数多めです。

 たくさん売り上げるためにはどうしたらいいか?とか、ファビュラスな弁護士になるためにはどうしたらいいか?とかはわかりません。

 この1年間で2つの事務所に所属して、それぞれの事務所の仕事のやりかたを体験しました。とはいえサンプルが「2」ですから、汎用性のあることは書けません。何か1つくらい、誰かが精神的に大丈夫になるためのヒントを残せたらいいなと思います。

 また、1つめの事務所も2つめの事務所も小規模な街弁事務所です。大規模事務所には大規模事務所なりの苦労もあるのかもしれませんが、よくわかりません。

 さあ、十分にディスクレーマーをつけたと思うので、そろそろ本題に入りますね。

目次

1人で弁護士事務所をやっていると思い込む

 私は一般企業で長いこと会社員をしていたので、前提として、初めてやる仕事はやり方を教えてもらえるものだと思っていました。しかし、弁護士は仕事を教えてもらえませんし、業務指示みたいなものも無いと思っていたほうがいいです。

 私はとにかくこの点に戸惑いましたし、今でも戸惑い続けています。

 ただ、イソ弁としては、どこかのタイミングでボスのところに成果物を持って行ったり、相談に行ったりしなければなりません。そのタイミングが問題になります。

 そのタイミングについて、私は1つの暫定的な答えを出しました。「もし1人で弁護士事務所をやっているとしたら、この状態で依頼者に説明できるか?」と考えて、行ける、と思ったらボスのもとへ行きます。1人で依頼者に説明できないような状態であれば、まだ持っていくべきではありません。

 言い換えると、大事なのは「根拠を持って、自分が責任を持てる範囲の結論を出すこと」だと思います。

 会社員の話に戻します。会社員だと「一緒に結論を導く」みたいな体験を共有したほうが、チームとしてのパフォーマンスを高められることが多いです。なので、なんとなくの着地地点だけ決めて、あとは話し合って決めようね、みたいな仕事の進め方をします。

 弁護士の場合、とにかくこういう発想を捨てて、自分で「決める」ことをしておいたほうが、かえって議論が捗ります。こういう視点で仕事をするようになってから、だいぶコミュニケーションが円滑になり、精神的に楽になったように感じます。

ふつうの弁護士のラインを知る

 こんどは別の思い出話です。

 私の弁護修習先の指導担当の弁護士はとにかく優しい人柄で、とにかく甘やかされ続けた修習生活でした。「弁護士1年目はとにかく大変だから、今のうちに休んでください。」と言って、弁護修習を休ませまくってくれました。

 弁護士1年目ってそんなに大変なんですか、と訊くと、弁護士1年目は「ふつうの弁護士ができなきゃいけないこと」がわからないから大変なんだ、と教えてくれました。

 弁護士になると、この言葉の意味がよくわかります。最初のうちは何でも答えられなきゃいけないと思って、あたふたしたり、変なこと言ってしまって後から訂正するのに苦労したり、自分にがっかりしたりします。

 私もまだまだ偉そうなこと言えないんですが、1年経つと、「いやいや、そんなの調べてみないとわかりませんよ。」とか「もっと事実関係を聞いてからじゃないと判断できませんね。」とか余裕で言えるようになります。

 こういう返答をするのは別に恥ずかしいことではない、とわかるようになると、精神的に少し楽になりました(別に誇るようなことでもないんですけど)。

同期の弁護士の知り合いを作る

 さっきの項目から続く話です。ふつうの弁護士のラインを知るためには、多くの弁護士と知り合う必要があります。

 私は文学部出身で予備試験経由だったため、そもそも法曹関係の知り合いが全然いませんでした。限界修習地だったため弁護士の同期も同じ地域におらず、オンライン修習のためクラスの知り合いも皆無でした。

 まあそれでもなんとかなるかなと期待していましたが、残念、1つめの事務所を辞めた際にものすごく困りました。

 そのため、2つめの事務所に入ってからは、意識的に弁護士の知り合いを作ろうと思い、委員会の飲み会や派閥の飲み会に積極的に出るようにしました。そこで同期の弁護士がどんなことをしているのか、どんなことに悩んでいるのかを聞いて、かなり精神的に楽になりました。

 あと、一番しんどい時期には、Twitterのリスト機能を使って、FFの75期のみなさんのツイートを毎日眺めていました。知らない同期でも、ああ、みんなも大変な思いをしているんだな〜と勝手に共感しているだけで、かなり救われました。とても感謝しています。

勉強する

 2つ前の項目から続いている話ですが、即答できなくても大丈夫だなと判断できるようになるためには、ふつうの弁護士がふつうに身につけているべき知識を身につけている必要があります。

 1つめの事務所を辞めた頃、『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)という本を読みました。以前、Twitterでは紹介したことがある気がします。

 自己啓発本では、「自信をもつ」「自尊心を高める」ことの重要性が説かれている。最近では、社員の能力を発揮させるためには「心理的安全性」が重要だとされている。だがこれは、因果関係が逆だ。

 自尊心をもてるのは大きな人的資本(高い専門性)があるからで、それによって対立する相手の意見を尊重する余裕が生まれる。心理的安全性も同じで、それは上司や同僚の言葉遣いによって与えられるものではなく、相手の言葉に「脅威状態」で反応しない大きな人的資本が「安全性」をもたらすのだ。

 この箇所を読んで、なんだよ結局勉強しろってことかよ、と絶望するか、勉強すればマシになるのか、と希望を持つかは、人それぞれかもしれません。

 会社員をしていた頃と比較すると、弁護士は勉強すればするほど仕事に役立つ知識が身につくし、本屋さんに行けばいくらでも勉強するための本が売っているので、その点は恵まれているなと感じます。

自分の精神的健康状態を客観視する

 抽象的なことばかり書いてきたので、むかし何かの本で読んだ、少しだけ具体的な対処方法も書きます。

 自分の精神的健康状態を数値化して、定期的に記録する方法です。私は「メンタル健康指数」という100点満点の数値を1週間ごとに記録しています。むかし読んだ何かの本では、毎日、手帳に書き込むようにアドバイスしていました。

 これを続けることによって、「ランニングするとメンタル健康指数が少し上がるな」とか「友達と遊びに行くとメンタル健康指数がけっこう上がるな」とか「個人事件を終えるとメンタル健康指数が大きく上がるな」とか、何をすれば自分のメンタル健康指数がどれだけ上がるかが把握できるようになります。

運動する

 もっと具体的な対処方法としては、ランニングするのが効果的です。

 これは決して「身体を動かしてリフレッシュしよう!」という、気分の話ではありません。以前も別の記事で書きましたが、BDNFというタンパク質が、ニューロンの発生を助けてくれます。

<関連記事>・ランニングについて熱く語っている記事

 これによって、新しい発想が生まれます。思考の逃げ道が作られます。1つの「嫌なこと」ばかり考えて1か所をぐるぐる回っているところに、新しい脱出路ができるイメージです。

 私は1つめの事務所を辞めたばかりの頃、起き上がれないほどメンタルがやられてしまいました。少し回復して散歩できるくらいになり、さらに回復してランニングできるようになってからは、どんどん精神的に大丈夫になっていきました。

状況は変わると知る

 最後にまた、抽象的でよくわからない話をします。

 当たり前のことなんですが、状況は変わるんだ、ということを知っていると気が楽になります。「ゆく河の流れは絶えずして」です。「祇園精舎の鐘の声」です。

 どんなにどうしようもないと思っていた訴訟でも、突然相手方が変な証拠を出してきて自爆してくれることもあります。どんなに解決方法が思い浮かばなくて悩んでいた事件でも、依頼者が新しい証拠を持ってきて、そもそも解決不可能であることが明らかになることもあります。

 いつまでも同じ状況が続くわけではありません。少なくとも私がこの1年間で担当した(大きめの)案件については、状況が変わらなかった案件はありません。良くも悪くも、思いがけない方向に展開していきました。

 だから楽観的に手を抜いていいよって意味ではないんですが、一所懸命やってるんだったら、そこまで悲観的にならなくても大丈夫じゃないかな、と思います。

 

 最後に。

 今年、BILLY JOELの“We didn't Start The Fire”を、FALL OUT BOYがカバー(というかリメイク)した曲を発表しました。ちょうど2つめの事務所に入ったばかりのころで、毎晩、帰り道に聴いていました。

We didn't start the fire. It was always burning, since the world's been turning.
We didn't start the fire. No, we didn't light it, but we tried to fight it.

 もともと好きな歌詞だったんですが、これ、弁護士にぴったりだなあ、と思いませんか。

 弁護士をやっていると、依頼者からめちゃくちゃ責められたりすることもあると思います。そういうとき、ああ、自分の頑張りが足りなかったかな、と思って落ち込んだり、自分を責めたりしたくなります。

 しかし、よほど通り魔的な犯罪被害者や交通事故被害者でもない限り、そもそもトラブルに巻き込まれたことについて、本人の落ち度があったりします。仮に依頼者にまったく落ち度がない事件であっても、別に弁護士のあなたが責められる筋合いはありません。

 世の中、誰かが必ず責められなければならないわけではありません。あんまり自責の念に駆られることなく、But we tried to fight itくらいの気持ちで取り組んでいいんじゃないかと思っています。

 

 長々と書いてきましたが、半分くらいは自分に向けて書いた独り言みたいでしたね。すみませんでした。

 この記事を読んでくれた方が健康的に弁護士を続けられることを祈っていますし、将来この記事を読み返した自分が楽しく弁護士を続けていることを祈ります。