司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

司法修習生はたぶん要件事実を使う

【読むとよいタイミング】修習開始前〜修習終了まで

 

 あいだに変な記事も挟みましたが、ここ最近、「司法修習中に読んだ本を紹介する」シリーズをお届けしていました。

 第1弾は、法律文書の書き方に関する本を紹介しました。

article23.hatenablog.jp

 第2弾は、刑事系科目に関する本を紹介しました。

article23.hatenablog.jp

 そして第3弾は、民事系科目に関する本を紹介します。おそらく最終回です。

 これまでの記事で少しずつ紹介している話ではありますが、二回試験の民事系科目は、大問で「事実認定」と「要件事実」の知識を使った論述問題、小問で「執行・保全」「証拠収集」「和解」の知識を問う穴埋め問題、そして民事訴訟手続の細かい知識を問うちょっとした論述問題が出題されます。

 今回の記事も、それをうっすらと意識した構成になっています。

 

目次

『弁護のゴールデンルール』

 前回の記事で紹介し忘れたので、刑事弁護で有名な高野隆先生が翻訳しているため刑事弁護の本だと思われていますが、民事弁護にも通じる大事な話が書かれているので、今回の記事の冒頭で紹介します(いきなり構成を無視してすみません)。

 イギリスとアメリカで活躍する法廷弁護士が書いた『弁護のゴールデンルール』(現代人文社)です。普通の本屋さんではあまり見かけない本ですが、和光の至誠堂では平積みされていました。

 法廷技術の基本と本質が書かれた古典的名著です。研修所はやたら「ケースセオリー」教育だけを重要視していますが、「法廷技術」も、それと同じくらい重要な話だと思います。白表紙にして配ってもいいくらい。

 修習地によっては、選択型修習で、刑事の模擬裁判を本格的にやらされることもあります。特に、少人数の修習地では強制参加させられる場合が多いと聞きました(選択型なのに強制…)。また、76期以降は、集合修習でも対面方式で模擬裁判をやることが予想されます。

 これを読んで「カッコイイ尋問」ができるようになるかどうかはわかりませんが、これを読んでおくと「恥ずかしい尋問」を避けられる可能性が高まることは間違いないです。

『ステップアップ民事事実認定』

 さて、ここからいよいよ民事の話です。まずは事実認定。

 中村直人先生が『弁護士になった「その先」のこと。』という本の中で、「心証形成に関する本は、10冊くらい熟読してください」と書かれていたので、私も頑張って10冊くらい読もうかと思いました。

 が、実際に修習中に通読できたのは3冊だけでした。その中で一番オススメだったのは『ステップアップ民事事実認定』(有斐閣)です。

 中村直人先生は、先ほどの本の中で、昔の裁判官と違って、今の裁判官はルールに従って心証形成をしている、と書かれています。そして特に、処分証書についてしっかりと読むように書かれています。

『ステップアップ』は、第1部の「解説編」と、第2部の「演習問題編」から成り立っています。特に「解説編」の書証に関する説明がとにかく丁寧で、わかりやすいです。処分証書とか、二段の推定とか。

 みなさんご存知のとおり、処分証書の定義には「よってされた説」と「記載された説」があります。ジレカンが「よってされた説」なので、「よってされた説」に立った判断枠組みしか学んでいない修習生も多いと思います。

 それでも全然構わないとは思うんですが、「記載された説」に立った判断枠組みを理解したほうが、「よってされた説」に立った判断枠組みを理解しやすいのではないかと感じています。急がば回れ

余談:要件事実の話

 話の流れから、次は「要件事実」のオススメ本を紹介すべきなのかもしれませんが、特にありません。知識に関しては、以前の記事で紹介した白表紙と大島本を読んでいれば十分だと思います。

 というのも、集合修習の即日起案では、誰も答えを知らないような事案を出して、要件事実的知識ではなく「要件事実的思考能力」を試す傾向が強いように感じたからです。二回試験でも、オーソドックスな事例は出題されませんでした。

 ではその「要件事実的思考能力」を高めるにはどうしたらいいか。私が偉そうに語っていいテーマではないような気がしますが、考えていることを少しだけ書きます。

 民事裁判修習で事件記録を読む際、どんなに意味不明な主張反論がなされていても、必ず、要件事実と認否を紙に書き出して、わからなかったら裁判官に答え合わせをお願いするといいと思います。尋問前後まで手続が進んでいる事件記録だと、トレーニング効果が高まるような気がします。

 そして、自分の頭だけで考えてもわからない場合には、『要件事実マニュアル』に加えて、この本が参照している元の文献を当たるとヒントになります。経験上、そこまで調べて答え合わせをお願いしたら、裁判官も怒らないと思います(反対に、そこまで調べずにお願いすると……)。

(pixabayからのイメージ画像)

『基礎からわかる民事執行法民事保全法

 続いては、執行・保全の話です。

 予備試験対策として最低限の知識しか詰め込んでいなかった方には、まずは『基礎からわかる民事執行法民事保全法』(弘文堂)を読んでおくことを勧めます。

 なんといっても、驚異的にわかりやすかったです。

 一応お断りしておくと、書いてある内容が簡単なわけではありません。受験生にも「抵当権」「差押え」「第三債務者」「転付命令」といったワードにアレルギー反応を起こす方が多いという話を聞いたことがあります。この本の扱っているテーマは、まさにそのアレルゲンです。

 ただ、そのややこしい話をわかりやすく説明する能力が卓越しています。表とか相関図とかを使っている、という技術的なものもあるんだと思いますが、何より、書いているひとの頭が良いんだと思います(頭が悪い感想…)。

『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究』

 続いては、和解の話です。

 導入修習で配られる白表紙(というかプリント)を読んでおけば十分な気もしますが、心配な方は『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究』(法曹会)を読んでおくといいと思います。

 この本は和解条項の「記載例」として知られており、実際にも記載例として参照する使い方をする機会が多いのですが、記載例の部分は「第2章」で、「第1章」に和解条項の作り方に関する解説があります。

 ちなみにこの本、よく「修習生のうちじゃなければ買えない」と言われます。私も教官からそう言われたので、あせって至誠堂の通販サイトで購入しました。しかし、二回試験の際、和光の至誠堂で売っているのを見かけたので、修習後であっても、研修所の敷地内に入れれば(裁判官になった同期とかに頼めば?)買えるのではないかと思います。

(pixabayからのイメージ画像)

余談:証拠収集

 話の流れから言うと、証拠収集のオススメ本を紹介すべきところですが、特にオススメできるような本には巡り合いませんでした。あまりに範囲が広すぎて、網羅的に解説できるようなものではないんじゃないかと思っています。

 実務的には、その都度、該当分野に関する文献に当たって、あとは経験と勘でどうにかするしかないんでしょうね。たまにTwitterを眺めていると「そんな手段もあるのか!」と感動することもあります。なんとも浅い感想ですが、この辺が“弁護士の腕の見せ所”なのかな、と思ったりすることもあります。

 二回試験対策という観点からも、対策は不要だと思います。二回試験では穴埋め問題が出ましたが、導入修習で配られたレジュメをきちんと読んでいれば満点を取れる内容でした。

『企業法務のための民事訴訟の実務解説』

 最後に紹介するのは『企業法務のための民事訴訟の実務解説』(第一法規)です。

 本来は、今回の記事で最初に取り上げるべき最重要書籍だったと思います。しかし私はこの本を修習が終わってから読みました。実務修習地の県内の本屋さんに置いていなかったからです。

 この本を紹介してきたすべての先人たちが述べているとおり、書籍名の「企業法務のための」は気にしなくて大丈夫です。企業法務担当者に向けて書いてある体裁ですが、クリティカルヒットするのは修習生と新人弁護士で間違いありません。

 2022年11月に最新の第3版が発売されました。第3版では、改正後の民事訴訟法(「民事裁判手続のIT化」と呼ばれるもの)について学べます。改正直前に本格的に学び直さなきゃいけないんだろうな…とは思いつつ、改正の概要を学んでおける貴重な機会になりました。

 この本には、民事訴訟の追行のために必要な実務的知識が詰まっています。私が民事裁判修習中に指導担当からゴリゴリに問い詰められた訴訟手続の実務に関する細かい知識が、すべて記載されていました。罵られて泣きそうになっていた1年前の私にこそ教えてあげたい一冊。

 とにかく内容が充実していて、なんと688ページあります。通読するのはしんどいと感じるかもしれません。が、最後のほうはサンプル書式なので、文章としては475ページまでです。修習で必要とされる「第一審」に限れば379ページまでです。なんだか読み切れそうな気がしてきませんか。