司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

書を捨てよ、論文を書こう

【読むとよいタイミング】勉強開始直後/論文を書く前

 

 もう何回も同じことを書いていますが、このブログはもともと、私が司法試験のために読んだ、広い意味での「勉強法」に関する60冊の本についての情報をまとめる目的で始めました。この1年で30冊くらいは紹介できたと思います。

 ただ、60冊全部がオススメというわけではないので、もう、紹介したい本はそれほどありません(あと5冊くらい)。

 他方、私はもともと自己啓発本が大好きなので、司法試験後も継続して新しい本を少しずつ読んでいます。そして先日、ブログで紹介したい自己啓発本に出会ったので、新しく記事を書くことにしました。

 記事のテーマは「今すぐ論文を書き始めよう!」です。自分語りも少し加えて、何冊か紹介しようと思います。

(pixabayからのイメージ画像)

目次

前置き:カルツァの話

超ひも理論」で有名な物理学者テオドール・カルツァは、とにかく理論を重視したそうです。彼は、水泳に関しても、泳ぎ方に関する理論を徹底的に学術論文を読んで研究しました。そして、人生で初めて池に飛び込んだ際、一発で見事な平泳ぎを披露したとのこと。

 …なかなか面白いエピソードですよね。

 しかし、カルツァのような超天才は一部の例外です。私のような凡人は、いきなり実践して一発成功できるほど、理論を徹底研究できません。論文式試験の会場に行って、人生で初めて法律試験の論文を書いてみて、合格できるわけがないのです。

本題:『エフォートレス思考』の話

 今回紹介したかった本は『エフォートレス思考』(かんき出版)です。2021年12月に発売された比較的新しい本です。紀伊國屋さんで平積みされているのを見かけていたんですが、引越しやら就活やらでバタバタしていて、先日ようやく読めました。

 努力(effort)が無い(less)というタイトルなので若干誤解を招きますが、著者は「サボろう」とか「怠けよう」などと主張しているわけではありません。限られたリソースを、本当に達成すべき目標に全力で注ぐための方法論が説かれています。

 どの章のどのエピソードも面白かったのですが、特に第9章「よい失敗を積み重ねる」の内容がとても良かったです。

 司法試験は「短答式試験」と「論文式試験」に大きく分かれますが、両者で求められる能力は全くの別物です。合否を分けるのは「論文式試験」の結果なので、いかにその対策に注力できるかで勝負が決まると言っても過言ではありません。

 しかし、論文を書くのはとにかくつらい。面倒。大変。とりあえず短答式試験の知識が身についてから書いてみよう…などと考えていると、少なくとも短期合格は望めません。また、これは持論ですが、短期合格を目指すのであれば、短答式試験の1か月前くらいまで、論文対策だけに100%注力するべきだと思っています。

 そんなことわかってるよ!もう論文書きまくってるよ!つらいよ!という受験生には関係のない話だったかもしれませんが、そうではない受験生にとっては、勇気づけられるエピソードがたくさん出てきます。ぜひ読んでみてください。

 最後に少しだけ文章を引用します。この文章の「ゴミ」という表現に反感を抱く方にこそ、読んでみてほしい本でした。

 不完全さを受け入れ、ゴミを作る勇気を持てば、私たちは始めることができる。

 そして一度始めれば、だんだんマシなものができてくる。

 そしていつかゴミの中から、あっと驚くようなブレイクスルーが生まれてくるはずだ。

 

 ちなみに『エフォートレス思考』は、『エッセンシャル思考』(かんき出版)がベストセラーになった後、その「実践編」のような位置づけで書かれた本です。日本でも2014年に発売され、ビジネス書大賞を受賞していたそうです。

 こちらの本は文字どおり、自分にとって本質的な(essential)物事を見極めるための方法論が説かれています。著者自身が述べているように、『エッセンシャル思考』で「What」を見定めて、『エフォートレス思考』で「How」を磨くようなイメージです。

 私は現在、やらなければならない「司法修習」が目の前にあって、その後しばらくは「新人弁護士」として、目の前の仕事にがむしゃらに取り組もうと思っています。そのため、あまり「What」に悩んでいないので、とても役に立った!という感覚はなかったです。読み物としては2冊とも同じくらい面白かったです。

(なお、『エッセンシャル思考』の中でも、物事を「早く小さく」始めることの重要性が説かれています。)

補足:『ULTRA LEARNING』の話

 話を戻します。今すぐ論文を書き始めよう、という話です。特にこれ以上のメッセージはないので、ここから先はすべて「補足」です。

 実践することの重要性を真正面から取り上げている本の1つに『ULTRA LEARNING』(ダイヤモンド社)があります。このブログでも何回か取り上げた記憶があります。

 著者が提唱する「ウルトララーニング」の最重要ポイントはシンプルです。外国語を3か月でマスターするための方法は、いきなりその国に住むこと。似顔絵を描く方法をマスターするための方法は、いきなり描いてみること。そのような実践を、この本では「直接性」と表現しています。

 それだけと言えばそれだけなんですが、1つ1つのエピソードが面白いです。また、「直接性」以外にも「計画(勉強法の勉強)」や「想起」や「フィードバック」など、重要なテーマがたくさん取り上げられています。この本を読み終える頃には、「論文式試験を受けたいなら、今すぐ論文を書くしかないんだ」と思えるようになるはず。

蛇足:自分の話

 先日、Google先生が教えてくれたんですが、「予備試験1年合格」という検索ワードと一緒に検索されることの多いワードは「スケジュール」だそうです。このブログは「予備試験1年合格」をうたっておきながら、あまり体験談を書いてこなかったので、たまには自分語りをしてみます。

 私は2019年の5月頃から法律の勉強を始めました。伊藤塾の「体系マスター」を聴き始めた時期です。そして、初めて論文の答案を書いたのが同じ年の8月でした。当然ながら全然書けず、本当に「ゴミ」のような答案でした。

 しかし、ゴミのような答案を書いてみて初めて、何を暗記しなければいけないのかがわかりました。それまで3か月間の勉強が全て無駄に思えるほどの気づきだったので、本当はもっと早く論文を書いてみるべきだったのかもしれません。

(結果的に予備試験は延期になり、そもそも合格発表はさらに翌年の2月なので、これで「予備試験1年合格」をうたったら優良誤認表示ではなかろうか…という後ろめたさもあって、今まであんまり具体的な話はしてきませんでした。この機会に自白しておきます。)

 

 そして、その年の8月末、早稲田大学ロースクールを受験しました。『ノルウェイの森』みたいな学生生活を送ってみたかったんです。既修コースを受験したので、憲・民・刑・民訴・刑訴の5科目の論文式試験でした。

 結果は見事な惨敗。

 まあ、今になって振り返れば、コロナで『ノルウェイの森』みたいな学生生活は望めなかったわけだし、運よく翌年度の予備試験も通過できたので、見事な惨敗でよかったな〜と思っています(負け惜しみ)。

 なんでこんな話までしたかというと、失敗エピソードを披露して好感度を上げたかったからではありません。「3か月間で5科目の論文を書けるようになる」という無謀な目標を立てて、そのときに失敗体験をしておいたからこそ、翌年度の予備試験に向けた実践的な学習ができるようになったと思っているからです。

おまけ:講談の話

 いつかこのテーマで記事を書くことがあったら紹介したいと思っていた話があります。自分語りなんかしていたら記事が長くなってしまいましたが、もう少しだけ書きます。

 私は受験生になる前から、寄席などに行って落語や講談を聞いていました。そして受験生の頃、神田松之丞さんが神田伯山を襲名することになり、勉強をサボって最後の独演会を聞きに行きました。

 そこで最後の演目として披露されたのが、『淀五郎』です。自分の能力に見合わない役柄に大抜擢された役者の淀五郎が、先輩役者の中村仲蔵のもとへ行き、アドバイスをもらうシーンがあります。2年半前の記憶を頼りに再現してみますが、間違っていたらすみません。

仲蔵:お前さん、上手くなるための方法を知っているか。

淀五郎:いえ…わかりません。

仲蔵:恥をかくことだよ。恥をかいて、恥をかいて、ようやく少しだけ上手くなるんだ。

 正直、ゴミみたいな答案を書くのは本当に恥ずかしかったです。それを誰かに見てもらったり、添削してもらったりすると、余計に恥ずかしいです。でも、そういう恥ずかしい経験を通じてしか、上達する道はないんだろうなと信じています。

 

 すみません、最後の話はほとんど自分に向けて書いたようなものです。周囲より歳を取って修習に行くと、恥をかくことにためらう場面が多々あります。そんなときにはこの言葉を思い出し、これからもゴミみたいな起案をして、恥をかいて、恥をかいて、少しずつ上手くなっていきたいなと思います。