司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

頼むから勤務弁護士にしてくれ

【読むとよいタイミング】司法試験の後

 

 私は去年10月、Twitterきっかけで参加したZoom飲み会で事務所合同説明会のことを教えてもらい、そこから就職活動をスタートしました。(もし司法試験受験生でROMってる方がいれば、合格を機にアカウントを取得してみてはいかがでしょうか。人生が少し変わるかもしれません。)

 そういう経緯もあったため、内定の報告もTwitterでしようかな〜と思っていたんですが、内定先にアカウントバレするのも怖いので、とりあえず閲覧者数の少ないブログのほうだけで報告することにしました。

 というわけで…内定頂きました!ありがとうございます!!

 今回は、司法試験合格後から、弁護士としての就職先が決まるまでの間に読んだ本を紹介します。私はもともと司法試験受験生の知り合いが皆無の情報弱者だったので、そういった境遇の方の参考になればいいなと思っています。ならなかったらすみません。

(pixabayからのイメージ画像)

目次

即独を回避しようと思うまで

 私は文学部を卒業後、法律とは無縁の(無法地帯の)民間企業で長いこと会社員をしてしまっていました。なんとなく昔から言われていた「弁護士の就職難」のイメージも引きずっていたこともあって、就職先なんて無いんだろうな〜と思っていました。

 そのため「即独」を覚悟し、最初に『実践!法律事務所経営マニュアル』(ぎょうせい)という本を買って読み始めました。

 この本では、地方で開業することを念頭に、物件選びから看板の出し方、事件の受任ルートの開拓手段まで、幅広いテーマで方法論が紹介されています。その話もおもしろいのですが、今回はその話ではありません。

 この本には「コラム」が15個載っていて、コラム1のテーマが「即独はやめておきましょう」という趣旨なんです。理由の1つ目は、「初めての弁護士業務」だけでも大変なのに、「初めての事務所経営」を両方こなすのはもっと大変だから。理由の2つ目は、先輩弁護士から指導を受ける機会を失うから。

 弁護士なんてタウンページに電話番号を載せておけば生活に困らないくらいの仕事は来るでしょ〜、とか、業務に必要な知識は司法修習で学べるでしょ〜、とかとか、非常識な考えを抱いていた私はここでようやく目が覚めました。

弁護士就活を頑張ろうと思うまで

 んだば、ダメもとで弁護士就職を目指して就職活動をしてみようか…と思い、次に『新・弁護士の就職と転職』(商事法務)という本を読みました。

 この本の著者は、いわゆる「四大事務所」での勤務弁護士を経て、弁護士事務所を独立開業して経営弁護士を務めるかたわら、弁護士のキャリアコンサルタントヘッドハンティングの仕事もしている方です。

 副題に「72講」と書いてあるのでビビるかもしれませんが、全体で150ページほどの薄い本で、とてもコンパクトに弁護士業界の就職・転職事情が解説されています。

 また、就職活動の実践的なテクニックも紹介されています。自らの司法試験の順位に伴って、履歴書に書く内容や、面接での立ち振る舞いを変える…という話などは「弁護士就活ならでは」でおもしろいなと思いました。

 なお、この本の大きな特徴として、インハウスの転職事情も詳しく載っている点があります。私は意地でも会社員には戻りたくないと思っていたのであまり参考になりませんでしたが、きっとこれからどんどんインハウスも増えていくんだろうなあ、と思って興味深く読みました。

企業法務がいいなあと思うまで

 さて、これでようやく就職活動を始める準備が整いました。では、どんな事務所に履歴書を送ればいいのでしょうか。

 私は労働事件に携わりたくて弁護士を目指し始めたので、まずは労働事件の大家である高井伸夫先生の本を読みました(以前Twitterでも紹介した気がします)。高井先生の本を読んで、労働者側の労働問題だけではなく、企業側の人事・労務問題を扱う業務もおもしろそうだなと思うようになりました。

 そこで、次に読んだのが企業法務の第一人者・中村直人先生の本です。日経新聞の「企業が選ぶ弁護士ランキング」企業法務部門で前人未到(?)の10連覇を継続中の偉人です。

『弁護士になった「その先」のこと。』(商事法務)は、中村・角田・松本法律事務所の新人弁護士向けの研修を文字起こししたものです。朝何時に出勤して、顧問先とどうやって連絡を取って、どうやって調査して、訴訟の期日には何をしに行けばいいのか、といった方法論が具体的に書かれています。

 本の雰囲気を伝えるのはとても難しいんですが、とにかく中村先生が全力で仕事に取り組んで楽しんでいる様子が伝わってきて、ああ、こういう仕事がしたいなと率直に思いました。

 世の中にはあまり訴訟に携わらない企業法務の事務所もあると聞きますが、私はきちんと訴訟に携わる事務所に就職したいと思うようになりました。

 

 さて、もはや就職活動とは無関係ですが、中村直人先生がかっこよすぎるので、もう2冊紹介します。

 まずは『訴訟の心得』(中央経済社)です。従来、私は頑なに「紙」で本を読んできたんですが、絶版になっていたため、ついにkindleデビューしてしまいました。

 この本は、準備書面の書き方とか、証拠の出し方とか、尋問のやり方とか、弁護士向けのテクニックが書いてある本なので、なかなか修習前だとイメージがわかないかもしれません(少なくとも私は修習中に読んだ本の中で一番おもしろかったです)。

 私がこの本で一番好きなのは、あとがきです。副題は「楽しい訴訟」。少し長いですが、最後の部分を引用させて頂きます。

 訴訟の結論はどうやって決まるのか? というと、初学者は、

 「法律と証拠によって決まる」

 と答え、そこそこ勉強した者は、

 「いえいえ事件のスジですよ」

 と答える。

 さらに熟達の弁護になると、

 「難しい事件は、最後、弁護士の執念で決まるのですよ」

 と答える。

 弁護士の執念の調査、熟慮と、魂のこもった迫力の書面が裁判官の心を動かすのである。そして勝ったら必ず喜ぶことである(『ONE PIECE』のルフィのように)。

 それが戦系の弁護士である。

 突然のルフィ登場に驚きますが、それはさておき、良い文章ですよね。勝ったら喜ぶ。なお、最後の「戦」には「いくさ」とルビがふってあります。「戦系弁護士に、おれはなる!(どーん)」

 

 もう1冊紹介するのは『訴訟の技能』(商事法務)です。

 この本は、大きく分けて2部構成になっています。第1部は、元・裁判官の弁護士2名、会社訴訟の専門家弁護士1名、知財訴訟の専門家弁護士1名による座談会。第2部は、4名それぞれが書いた文章。

 座談会で中村先生が語っている内容は、『訴訟の心得』と重なっているものが多いかなという印象ですが、第2部で書いている内容はとにかく新鮮です。

 例えば、あえて「策略は有効か?」というテーマで「陽動作戦」「木に登らせる作戦」「離間の策」「ディストラクション」といった各種策略を紹介しています。決してポジティブな文脈で紹介しているわけではないのですが、そもそもこういったテーマの文献自体があまり存在しないので、とても刺激的でおもしろかったです。

おまけ:就職先を決めるまで

 すみません、話が脱線しすぎました。

 そんなこんなで(?)、企業法務をはじめ幅広い訴訟案件を取り扱う事務所に履歴書を送り、面接を経て、無事に内定を頂くことができました。

 ただ、その前に、すでに内々定を頂いていた個人事務所に決めて就職活動を終えるか、弁護士がたくさん在籍する事務所への就職活動を続けるか、非常に悩んでいました。そんな話を父にしたら、次のような話をしてくれました。

 最近になって思うんだけど、「鶏口牛後」って中国の古事成語、あれは嘘だな。鶏と牛が闘っても勝負になんかならない。鶏は鶏としか闘えないんだ。

 なんだか、わかったようなわからないような話ですよね。

 別にどちらが優れているとかではなく、それぞれに果たしている役割が異なるのだと思います。あくまで私は「多くのひとに良い影響を与えられるような仕事がしたい」と思ったので、就職活動を続けることにしました。新聞に載るような裁判って、やっぱり大きな事務所か、大人数の弁護団が担当していることが多いですよね。

 すみません、あんまり偉そうなことは書きたくなかったんですが、お断りした個人事務所の先生から遠回しに「給料で選んだんだろ」と言われて悲しかったので、こんなところでこっそりと反論させて頂いた次第でした。