【読むとよいタイミング】弁護士登録前〜弁護士1年目くらい
以前、弁護士1年目を何とか生き延びたことを記念して、「精神的に大丈夫になるためにはどうしたらいいか?」について考察する記事を書きました。(なんだかんだ、1年9か月、生き延びました。)
article23.hatenablog.jp
その際は、とにかく精神論、というか、私見しか書きませんでした。
このブログは基本的に本の紹介をするブログなので、今回は「精神的に大丈夫になるために役立った本」を5冊、紹介します。文字数多めです。
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目次
『脳を鍛えるには運動しかない』
しつこいですが、結局、一番メンタルの健康にプラスの効果があったのはランニングだったと思っています。
このブログで何度も紹介している『脳を鍛えるには運動しかない』(NHK出版)。 最近、装丁をリニューアルして、本屋さんに平積みされているのを見かけました。2009年発売の本にしては珍しいですよね(それだけ名著だということを言いたい)。
何度も書いていますが(何度でも書きますが)、決して「走って気分爽快!」というフィーリングの話をしているわけではありません。本の副題にあるように「脳細胞を増やそう(それによって思考回路の逃げ道を作ろう)!」という話です。
受験生の頃や修習生の頃は、週に3〜4回、ランニングをしていました。1つめの事務所を辞めた直後は、メンタルが危機すぎて3か月以上ランニングできませんでした。ランニングできるようになってからはメンタルも安定してきて、今でも週に1回はランニングするようにしています。
『(超)筋トレが最強のソリューションである』
ランニングの次は筋トレです。本当に勉強法オタクの人間が書いているブログなのか、と怪しくなってきますね。
紹介するのは、Twitterの有名人Testosteroneさんと、スポーツ科学の研究者である久保孝史さんの共著『(超)筋トレが最強のソリューションである』(文響社)です。
率直に言うと、筋トレって、ランニング等の有酸素運動に比べるとそんなに研究が進んでいないのかな、という印象を受けました。
しかし、それを乗り越えるTestosteroneさんの文章力によって、筋トレのモチベーションは確実に高まります。筋トレさえしていれば、すべての悩みが吹き飛ぶような気にさせてくれます。
(とてもポップな本なので、章ごとにショート漫画が掲載されています。これが進研ゼミに負けず劣らず、ことごとく「筋トレですべてうまくいく!」というドラマツルギーに支配されていて、おもろいです。)
私がこの本を読んだのは、今年3月。それ以降、毎晩、寝る前にバイシクルクランチ(仰向けになって両足を上げ、自転車を漕ぐように、右肘と左膝をタッチ、左肘と右膝をタッチ、と交互に動かすトレーニング)を100回しています。
メンタルが安定してきた時期と重なっているのがたまたまなのか、筋トレのおかげなのか、いまいちハッキリしません。筋トレのおかげだと信じて(Testosteroneさんを信じて)、今後も続けます。
『シンプルで合理的な人生設計』
続いては、以前の記事でも紹介した本、橘玲さんの『シンプルで合理的な人生設計』(ダイヤモンド社)です。
この本で紹介されている、相手の言葉に「脅威状態」で反応しない大きな人的資本(高い専門性)こそが「心理的安全性」をもたらす、という考え方にだいぶ支えられました。
実際、1年目は、何か言われると即座に「すみません!」モードに入っていました。しかし、ちゃんと知識を蓄えると、間違ったことや針小棒大なことを言われたときに「huh?」「huh?」と思えるようになります。
弁護士2年目になると、いろんなことが「2周目」になってきます。それでも定期的に初めての手続とかに遭遇することになって、そういうときには心理的安全性が揺らぎます。
つくづく、我々の武器(かつ防具)は知識しかないんだ、勉強し続けるしかないんだ、と感じる毎日です。
『ネガティブケイパビリティ』
次に紹介する本は、精神科医かつ小説家の帚木蓬生さんが書いた『ネガティブ・ケイパビリティ』(朝日選書)です。
本の副題にあるように、ネガティブ・ケイパビリティとは「答えの出ない事態に耐える力」のことです。
弁護士は、課題解決(答えを出すこと)こそが仕事です。しかし、世の中には本当に「どうしようもない」物事があります。街弁の仕事をしていると、考えに考え抜いて解決方法を閃く、という解決事例よりも、踏ん張って踏ん張って時間が解決してくれるのを待つ、という解決事例のほうが多いように感じます。
そして、本当の本当に「どうしようもない」物事にもかかわらず、四六時中、解決方法を考えて心を痛めていると、いつの間にか疲れ果ててしまいます。
依頼者の課題解決のためにも、自分の心の健康のためにも、弁護士こそネガティブ・ケイパビリティを持つことの重要性が高いのではないでしょうか。
本の紹介に戻ります。
著者が精神科医のため、臨床の事例に関する話は、読んでいて直接参考になるような話が多いです。が、冒頭から詩人のジョン・キーツの話が延々続いたかと思えば、終盤には源氏物語の話が延々続きます。あまり実践的な本ではないので積極的にはオススメしづらいですが、読み物として楽しめるような方にとっては面白い本だと思います。
ちなみに、この本は勝間和代さんの『超ロジカル選択術』(→ リンク)という本で紹介されていたので知りました。本題と逸れるので詳しく触れませんが、勝間さんの本も面白かったのでオススメです。
『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない』
さて、最後の一冊。今回は、この本が紹介したくて記事を書き始めました。前の本とは異なり、ネガティブな感情に対する実践的な対処法が学べる本です。
タイトルは『幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない』(筑摩書房)。残念ながら本のタイトルが怪しすぎる(スピリチュアルすぎる)のですが、実際は、ACT(アクト)という認知行動療法の一つを紹介する入門書です。
認知行動療法は、トラウマの治療なんかで有名になりましたよね。あるいは、蜘蛛嫌いを克服する実験映像をテレビで観たことがあるひとも多いと思います。
ACTは、その認知行動療法にマインドフルネスの考え方を取り入れて応用したもの、という感じです。
A Acceptance(受容)
C Connect(価値とつながる)
T Take effective action(効果的な行動を起こす)
すべては紹介しきれませんが、1つの例として「脱フュージョン」という考え方を紹介します。自分に取り憑いてしまった(フュージョンした)特定の考えを、自分から切り離す対処法です。
例えば、私は「自分は弁護士に向いてない」とメッセージに取り憑かれていました(回数は減りましたが、今でも1日に1回は思っています)。
脱フュージョンの第1ステップとして、「私は「自分は弁護士に向いてない」という考えを持っている」と口に出してみます。これで少し思考と距離が取れます。
第2ステップとして、メロディーをつけて「私は「自分は弁護士に向いてない」という考えを持っている〜♪」と歌ってみます。バカバカしいですが、これでかなり思考と距離が取れます。
第3ステップとして、「ああ、また「自分は弁護士に向いてない」の悲劇の物語が始まったよ」と呆れてみます。ここまで来ると、自分が取り憑かれていた特定の(悪い)メッセージがバカバカしく思えてきます。
これは一例ですが、この本には、こんなようなテクニックがたくさん紹介されていて、親切にも、ひとつひとつエクササイズがついています。自分で試してみて、効果のありそうな対処方法を身につけることができます。
まあ、騙されたと思って試してみてもいいんじゃないでしょうか。
ちなみに、ACTには禅宗の考え方にかなり共通する部分がある…という話もしたかったのですが、文章が長くなりすぎたので今回はやめておきます。(3年前、マインドフルネスについて書いた記事もあります。久々に読んだら意外と面白かったので、よかったら覗いてみてください →リンク)
(pixabayからのイメージ画像)
おまけ
ここから先は半分冗談のつもりで書きます。結局、メンタルの健康を左右するのは現預金なのではないか、という話です。
最も反省すべきポイントとして、私は修習中「弁護士になったらたくさん報酬がもらえるしょ!」と思い、会社員の頃の預貯金をすべて使い果たしてしまいました。散財し尽くしました。後悔しか残りませんでした。
実際、1つめの事務所は報酬の良い事務所だったのですが、私はわずか2か月で辞めてしまいました。しかも登録換え(引越し)までしたので、預金がゼロ(というか10万円ほどの債務超過)になってしまいました。
私のメンタルが一番終わっていたのが、この頃です。食事が喉を通らず、今よりも8キロ痩せていました。
しかしその後1年間、仕事ばかりしていたおかげで、そこそこの現預金が貯まりました。最近は「まあ、仕事辞めても数年は生き延びられるか」という楽観的な気分で過ごせています。
とにかく受験生や修習生に伝えたいのは、事務所の内定が出ていても、1つめの事務所をすぐに辞めても大丈夫なくらいの現預金は残しておいたほうがいいよ!ってことですね。お互い、頑張って生き延びましょう。