司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

読みつくした地図

【読むとよいタイミング】前回の記事の後(=2番目)

 

 今のところ、ペンギンが新型コロナウィルスに感染した…というニュースは聞きません。ただ、数年前、南極のペンギンからも活性化したウィルス(鳥インフルエンザ)が検出されたというニュースもありましたので、新型コロナに感染しないとも言い切れません。

 というわけで(?)、本日、ワクチンの1回目(個別接種)を打ってきました。打たれる側から近視眼的に見れば、副反応やら有効性やら嫌な情報も多いですが、俯瞰的に見たとき、コロナ収束に向かうために少しでも役に立てればいいなと思います。あらためて、医療に従事する皆様に感謝。

 さて、前回の記事では、テンションが上がってしまい、司法試験予備試験の最短合格の世界記録は「半年」である!といったことを書きました。ただ、冷静に考えてみたら、いきなり世界記録で走り切る話をされても困惑しますよね。

article23.hatenablog.jp

  河野玄斗氏のような「天才」ではない私にとっては、そもそもゴールまで歩き切るので精一杯でした。そして初めて歩く人間には、スタート地点からゴール地点まで歩き切るための「ルートマップ(地図)」が必要になります。

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 世の中には、各種予備校が出版している「予備試験についての本」が存在します。ここでは、そのような、予備試験について書かれた本を「ガイド本」と呼称することにします。

 というわけで、今回も前置きが長くなってしまいましたが、この記事では「おすすめのガイド本3冊」を紹介します。

 

目次

 

伊藤塾の出しているガイド本

 おいおいまた伊藤真かよ…と思われそうで怖いですが、またまた伊藤真です。まずは伊藤真です。この本には、予備試験を受験するにあたって必要な、予備試験に関する情報が網羅的に記載されています。

 合格者も不合格者もたくさん輩出している予備校の塾長が書いた本ですから、迷ったら、まずはこの本から読めば間違いないと思います。私もこの本から読み始めましたし、この本によって人生最大の分岐点を迎えることになりました。

LECの出しているガイド本

 ひととなりを詳しく存じ上げませんが、LECの“名物講師”と評判の柴田孝之氏も、予備試験のガイド本を出しています。その名も「完全攻略本」。今回の記事の中では、私がもっとも積極的に勧める本です。

 伊藤塾のガイド本は「客観的な情報」の比重が高いのに対して、この本は「主観的な情報」の比重が高めです。柴田氏の考える、予備試験合格までの道すじが、かなり詳しく記載されています。

 私は前回の記事で『ULTRA LEARNING』(ダイヤモンド社)という本を紹介しました。この本の教えは、ひとことで言えば「とにかく実践してみろ」です。(もうひとこと追加するならば「さっさと実践を始めろ」です。)柴田氏の教えもこれに近いものがあり、「論文を書くこと」を強く推奨しています。

 また、この完全攻略本には、末尾に実際の合格者(2回受験)の体験談(に柴田氏のコメントを加えたもの)が掲載されています。柴田氏の理論を読んだ後にこの体験談を読むと、合格のイメージが具体的にわきます。私も節目ごとに何度も読み返して、ガイド本としては一番活用しました。

 唯一、難点をあげるとすれば、この本は出版が2014年なので、少し情報が古いです。改訂を期待していたのですが、先ほどWikipediaで見たところ、2021年現在は三重県で町長さんをやられているようなので、あまり期待できないのかもしれません。客観的なデータなどは、伊藤塾のガイド本(2018年出版)で補完することを勧めます。

資格スクエアの出しているガイド本

 2020年夏にテキストの著作権侵害問題を発生させてから、新しい本は出版していない資格スクエア。個人的には代表の鬼頭政人氏の本のファンなので、またいつか新刊が読みたいものです。

 鬼頭氏は勉強法に関する本の中で、自らを「計測マニア」と紹介しています。受験生時代には首からストップウォッチをさげて、勉強時間だけではなく、食事やお風呂など、あらゆる時間を計測していたそうです。

 さすがにストップウォッチなるものは持っていませんが、私も、スマホのアプリを使って、過去問を解く際に「問題文を読む時間」「答案構成の時間」「答案1枚あたりの時間」すべてを計測して記録していました。同じ計測マニア仲間として、とても親近感がわきます。

 では、なぜ計測マニア(あるいは「記録魔」)が資格試験に強いのか…という話は、さすがに話の本筋から離れるので、またそのテーマで書く機会があれば書きます。

 さて、そんな資格スクエアも、予備試験のガイド本を出版しています。(さんざん鬼頭氏の話をしておきながら大変恐縮ですが、この本は別の講師が書いた本です。)

 なんてったって、薄くて読みやすいです。Amazonに登録されたデータによると、154ページ(前述の「完全攻略本」は、519ページ)。「予備試験を一発突破するための15の法則」「予備試験に関する10の質問」のような細かい見出しが設定されているのも、非常に読みやすいポイントです。

(前述の伊藤真や柴田氏にも共通して言えることですが、)このガイド本の著者は、予備校講師として多くの受験生を見てきた経験から、合格者に共通する法則、あるいは、不合格者に共通する法則を抽出しているため、説得力があります。

 少しだけ紹介すると、法則の1つ目は「受験ウォリアーに習え」でした。小学生の頃から成功体験を積み重ねてきたような、戦闘経験が豊富な受験生のことだそうです。おもしろい表現ですよね。

 そういう「たかが受験の1つ」と捉えている受験ウォリアーのほうが、案外あっさり合格するものだそうです。どうでしょう、身近な人物で心当たりはありますか?

 私自身は高校まで近所の公立学校にしか通ったことがなく、受験ウォリアーではありません。しかし、大学には、小学校時代から受験勉強をしてきたような受験ウォリアーの友達がいました。

 ある日、飲み会の帰りにその友達の家に泊まりに行ったら、当たり前のように、机に向かって勉強を始めました。曰く、「だって、明日の予習せなあかん」。

 ドラゴン桜には「歯を磨くように勉強せよ」という有名な箴言が登場します。私たちが歯を磨かなければ寝られないように、受験ウォリアーは「明日の予習せな」寝られないんだ…と驚いた記憶があります。大学時代には「このひとには一生追いつけない…」としか思いませんでしたが、確かに、資格試験を受けるのであれば受験ウォリアーのようになることが重要なのかもしれません。

 

 すみません、思い出話なんかしていたら、思いのほか冗長になってしまいました。一旦歩き始めたら途中で迷子にならないよう、お好きなガイド本を片手に、予備試験合格までの道を歩き切ってください。

 

ロジャー・バニスターを追え

【読むとよいタイミング】最初

 

 先日、にほんブログ村の「予備試験」カテゴリーで、おそらく一時的にですが、1位となっていました。たくさん投票して頂き、本当にありがとうございます。もう少し頑張って書き続けようと思います。

 さて、前回の記事でも書いたので しつこいかもしれませんが、このブログはもともと、私が司法試験のために読んだ、広い意味での「勉強法」に関する60冊の本についての情報をまとめる目的で始めました。

 しかし冷静に考えてみると、60冊すべてがおすすめ!というわけではありませんでした。

 まず、体感的に20冊を超えたあたりで気づき始めたのですが、80%くらいの「まともな本」に書いてある内容は、80%くらいの内容が、少なくとも1冊の別の本と重複するような気がします。というのも、まともな本は「科学的な根拠」をもとに書かれていて、その科学的に妥当な結論はおおむね一致するからです。

 他方、20%くらいの「まともじゃない本」に書いてある内容は、百花繚乱、千差万別でした。何の科学的根拠も無い「オレ流・ワタシ流の勉強法」は、何を書いてもいいからです。ガラパゴス的な独自の進化を遂げていました。

 友達と飲み会で話すのであれば、「まともじゃない本」の内容を紹介したほうが楽しいのですが、ここでそんなことを書いたら著者の営業妨害になるので、やめておきます。ただ、「これって科学的根拠があるのかな?」と思いながら接するだけで害は防げると思いますので、それだけ伝えておきます。

 というわけで今回は、従来より漠然としたテーマになってしまいますが、「勉強を始めるに当たっての心構え」の参考になる本を紹介したいと思います。あるいは、「勉強を始める前に伝えておきたいこと」を書きます。

 

目次

 

その情報は古くないか?

 そもそもなぜこんなテーマで書こうと思ったかというと、前々回あたりの記事で紹介した『21 Lessons』(河出書房新社)にこんな文章があったからです。

 というわけで、メキシコやインドやアラバマ州のどこかの時代後れの学校で身動きが取れなくなっている十五歳の子供に私が与えられる最善の助言は、大人に頼りすぎないこと、だ。ほとんどの大人は、良かれと思って行動しているが、どうしても世の中が理解できずにいる。過去には、大人の教えに従っていれば、まず間違いがなかった。大人たちは世の中をとてもよく知っていたし、世の中の変化はゆっくりしたものだったからだ。だが、二一世紀にはそうはいかないだろう。変化のペースが加速しているせいで、大人の言うことが時代を超越した叡智なのか、それとも古臭い偏見なのか、けっして確信が持てない。(p.344から引用)

 このブログで閲覧数が多い記事の1つに、単語カードではなく単語帳アプリを使った暗記を勧める記事があります。「スマホアプリ」なんてものが登場してからせいぜい10数年ですから、10年以上前の「勉強法」には登場しない情報です。

article23.hatenablog.jp

 そのほか、週2〜3回、30分程度の有酸素運動によって、記憶を促すBDNF(ニューロンの結合を促す「養分」のようなもの)が増大するという事実が、最近の勉強法に関する本では「常識」のように書かれていますが、10年以上前の本では見かけたことがありません。

 図書館の本には「時代を超越した叡智」が詰まったものが無数にありますが、勉強法に関する限り、身銭を切って、書店やAmazonで新刊を探すことを勧めます。

どのくらいの割合の時間を準備に費やすか?

学習成果 = 学習時間 × 学習効率(イメージ)

学習成果 = 学習時間 × 学習効率(イメージ)

 試験勉強を始める前に、最新の勉強法について学んでおくことは有益です。ただ、60冊も読むのは明らかに無駄です。実際のところ、どれくらいの時間を準備に費やせばよいのでしょうか?

 答えというか、ヒントの書かれている本があります。「とにかく実践してみろ」式の勉強法に関する良書『ULTRA LEARNING』(ダイヤモンド社)です。

 この本では、準備に費やすべき時間を「プロジェクト全体の10%」としています。予備試験までに2000時間勉強するとしたら、200時間。明らかに多いですね。(ただ、彼は同時に、プロジェクトが大きくなればなるほど割合は減少する、とも言っています。)

 じゃあ結局どうすればいいんだ?!と問われると、私の経験に基づく、科学的根拠のない話になってしまいます。すみません。

 最初の100時間を勉強する前に、10時間くらいを準備に費やしてみるといいと思います。それで十分だと思えば、残り1900時間はそのまま勉強を続けたらいいと思いますし、足りないと思えば、また10時間くらい勉強法について学んでみたらいいと思います。

 滅多に機会は無いですが、他の受験生と話してみると、案外、勉強法について何も調べずに勉強を始める受験生が多いと感じたので、このようなことを書きました。論旨が伝わりにくかったら申し訳ないです。

あなたのロジャー・バニスターはどこにいる?

 この見出しの文言は、『Limitless』(東洋経済新報社)という本に出てくる見出しから借用させてもらいました。すみません。見出しとして、かっこよすぎないですか?

 ロジャー・バニスターとは、人類で初めて1マイル(約1.6km)を4分未満で走り切った陸上選手です。彼が4分未満で走り切るまで、人類が1マイルを4分未満で走ることなんて不可能だと考えられていました。

 しかし、いざ彼が4分未満で走り切ってみせると、その後、他の陸上選手も続々と4分未満で走り切ることができたのです。すなわち、「4分未満で走ることなんて不可能」という「常識」が、人々に無意識の天井を設けていただけでした。

(なんだか「日本人は100mを10秒以内で走ることなんて不可能」と考えられていた状況と似ていますね。ここ数年、続々と9秒台で走る日本人選手が登場しています。)

 私にとってのロジャー・バニスターは、河野玄斗氏でした。週刊誌のゴシップを読むのが大好きな私としては、彼について書きたいことが山ほどあります…が、ここでは「予備試験に半年で合格した天才」とだけ紹介しておきます。

 おそらく彼の脳ミソの容量は、私の2倍はあるでしょう。しかし、もし本当に2倍だとすると、彼が「半年」で合格できたんだから、自分も2倍の「1年」勉強したら合格できるのではないか?と考えました。(算数の苦手な人間の、バカみたいな計算ですみません…)

 私は奇跡的に運の良い人間なので*1、あまり参考にならないかもしれませんが、実際に私は彼の2倍くらいの期間を勉強して、予備試験を通過することができました。

 もし、予備試験の合格までに必要な期間について、無意識の天井を設けているのであれば、今すぐ取り去ったほうがいいと思います。私の知る限り、人類の最短記録は「半年」です。

 なお、この記事の本筋とは離れますが、この本を読むと、彼のような天才も「想起」「反復」「分散」といった、勉強法の王道を歩んでいることがわかります。それはそれでとても勇気づけられます。(ただ、その歩き方が重装歩兵というか、ガンタンクというか、とにかく力強くて圧倒されます…)

お詫び

 なんだか当たり前のように、有酸素運動が記憶に欠かせない、とか、「想起」「反復」「分散」が勉強法の王道である、とか書きましたが、よくよく考えたら、それらのテーマに関する記事を書いていませんでした。すみません、不親切ですね。

 いつか書きます。

 

(2021/9/1追記)

 ひとまず「想起」「反復」「分散」について学べる本を紹介する記事は書きました。

article23.hatenablog.jp

 

(2021/10/16追記)

 有酸素運動が記憶に欠かせない、ということを紹介する記事も書きました。

article23.hatenablog.jp

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*1:さすがに「運の鍛え方」だけをテーマに記事を書くことは無い気がするので、脚注で本を紹介しておきます。自己啓発本の古典『運のいい人、悪い人―運を鍛える四つの法則』(角川書店)です。Amazonのリンクはこちら。あやしい書名ですが、原題は“The Luck Factor”で、Luck(運)のFactor(要素)とは何なのか、というテーマで心理学者が書いた、まじめな本です。オススメ。

くちびるに論証を(口述試験/対策編)

【読むとよいタイミング】予備試験の論文式終了後〜口述試験

 

 気づけば、司法試験の結果発表まで1か月を切っていました。

 このブログはもともと、私が司法試験のために読んだ、広い意味での「勉強法」に関する60冊の本についての情報をまとめる目的で始めました。今日までの時点で、まだ10冊程度しか紹介できていません。

 司法試験に不合格だった場合、ブログなぞ書かずに試験勉強に専念する予定ですので、これから結果発表までの間、思い残すことがないように記事を書こうと思います。

 というわけで、5回にわたって書いてきた予備試験の口述試験シリーズも、今回の「対策編」で最終回です。そもそも需要があったのかどうか自信がありませんが、私は書いてて楽しかったです。読んで頂き、ありがとうございました。

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(Pixabayからのイメージ画像)

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口述模試を申し込みましょう。

 私は当初、某予備校のオンライン形式の口述模試「1つ」しか申し込んでいませんでした。具体的な模試の内容を書くかどうか迷いましたが、ここでは書きません。ただ、試験勉強を始めて以来、もっともメンタルが破壊されました。

(これまでの記事に滲み出ていたかも知れませんが、私は伊藤真を崇拝しています。そのため、あんまり伊藤塾を直接的に批判するような内容は書きたくない…というのが心情です。)

 結局、別の予備校に泣きついて、対面形式での口述模試を受けさせてもらいました。運が良かっただけだと思いますが、丁寧なアドバイスももらえて、メンタルも無事に立て直して(絶不調→不調)、本番を迎えることができました。

 というわけで、リスク分散の観点から、2つ以上の口述模試に申し込むのは「必須」と考えたほうがいいと私は考えています。そして、このようなご時世ですが、できる限り「対面形式」で模試を行ってくれる予備校を探したほうがいいと私は思います。

再現問答を入手しましょう。

 短答式試験には短答式試験の問題集が存在し、論文式試験には論文式試験の問題集が存在しますが、口述試験にはその「問題集」に当たるものが存在しません。そのため、過去問の重要性が格段に高くなります。

 予備校の施策について無責任なことは申し上げられませんが、昨年度は、伊藤塾の口述模試に申し込むことで再現問答の冊子をもらうことができました。そのほか(1)後述の「定石」の付録、(2)辰巳の論文再現の購入者特典、(3)ブログやtwitterやnoteに晒してあるものを探すこと等で入手することができます。

 最近のものとしては、(4)ハイローヤー2021年夏号に、平成30年度、令和元年度、令和2年度の再現問答が掲載されています。(目次に「再現ドキュメント」と書いてあったので、ドキュメンタリー形式で読めるのかと期待してしまいましたが、普通の再現問答でした。)

 私も以前に晒した再現問答がありますので、よろしければご覧ください。

article23.hatenablog.jp

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声に出して勉強しましょう。

 頭の中に知識として蓄えてあっても、それをすんなり口述できるとは限りません。スポーツや楽器演奏などの身体動作の練習と同様、反復練習を通じて基本的動作を身体に覚え込ませることが重要だと私は考えています。

 ピアノを弾こうと思ったら、バイエルから始めて、細かい手の動きを身体に叩き込んでから、ラフマニノフに挑戦しますよね(飛躍しすぎか…)。要件事実を声に出して読み上げるのも、それと同じだと思います。

民事実務・実体法(民法

 何はともあれ、要件事実。いわゆる「大島本(基礎・上)」を読みました。過去問を見ると「訴訟物」「請求の趣旨」「請求原因事実」が繰り返し問われています。この本では、これらがわかりやすく囲われて強調されていたりするので、その部分をひたすら声に出して読んでいました。

民事実務・手続法(主に民訴法)

 再現問答を読んで頂くとわかる通り、昨年度、1日目の民事では手続法分野が一切出題されませんでした。過去問を見ても、出題分野がバラバラで、なかなか対策が立てづらいです。

 そのため、民事訴訟法については、過去問で出題された条文周辺だけを復習しました。民事執行法民事保全法については、基礎的な部分だけが問われているようでしたので、いわゆる「大島本(入門)」の該当部分の解説を読みました。

刑事実務・実体法(刑法)

 過去問を見ると、刑法分野は「構成要件」や「定義」について高頻度で、かつ、広範囲に聞かれる印象があったので、基本書を読むことにしました。

 私は法学については学習歴2年の新参者ですので、基本書に関してあれこれ申し上げられるほどの立場にありません。ただ、いくつか見比べて「学説の対立を意識した読みやすい解説」が書かれていたため、前田雅英先生の基本書を読みました。

 実際、公務執行妨害罪の錯誤に関する出題に対しては、この本に書いてあった二分説の解説を思い出しながら答えただけで済みました。

刑事実務・手続法(刑訴法)

 刑事実務の手続法分野は、民事実務と比較すると、対策が立てやすいと思います。というのも、出題される刑事訴訟法・刑事訴訟規則の条文がある程度決まっていて、それに対応したテキストが出版されているからです。

 試験会場で周囲をキョロキョロ見渡すと、辰巳の「青い本」を持っている受験生が受験生が多い印象を受けました。私は辰巳の本の装丁・本文デザイン・図・フォントの美的感覚が好みに合わないので、「定石」を読みました。

 ただ、過去問を見ると、かなり細かい条文知識も問われています。具体的には、証人の遮蔽措置・付き添い、予断排除原則、被害者特定事項の秘匿、証拠の厳選、勾留質問、緊急執行といった事項に関する出題がありました。

 私はこれらの事項について、口述試験の勉強を始めるまで何も知らなかったため、とても焦りました。公判前整理手続も高頻度で問われていますし、刑事訴訟法は、条文の素読の優先順位が相対的に高いと思います。

法曹倫理

 あんまり無責任なことは言えませんが、これまでの出題を見る限り、過去問で出題された弁護士職務基本規程の条文を確認するだけで十分対応できると感じました。

 ただ、それでも不安な場合(私も受験前は不安でした)、民事分野は「大島本(入門)」、刑事分野は「定石」に法曹倫理に関する解説がありますので、それらを読んでおくと安心できると思います。

 また、過去問を見ていると、条文の内容がストレートに聞かれる印象が強かったので、試験当日は基本的にずっと弁護士職務基本規程を読んで過ごしました。

精神面のコンディションを整えましょう。

 最後は精神論かい、というツッコミが聞こえてきそうですが、最後は精神論です。

 私はとにかく不安で不安でたまらなかったので、ネット上の口述試験の体験談を手当たり次第に読みました。すると、不合格者はパニックを起こして、「知っているのに答えられない」「わかっているのに説明できない」状態に陥って、不合格になるケースが多いようです。不安を和らげたくて読んだのに、不安が逆効果だとわかり、余計に不安になっただけでした。

 最終的な不安の和らげ方は人それぞれだと思います。私の場合、もっとも不安を和らげるのに効果的なのは「勉強すること」でした。

 

 最後に。

 おそらく口述試験は人生屈指の「嫌な思い出」になると思いますが、新・司法試験しか受けていない人々には経験できない思い出です。

 以前、旧・司法試験を受験した数名に話を聞く機会がありました。口述試験について尋ねると、皆それぞれにおもしろいエピソードを持っていました。

 共感は求めませんが、私は個人的に「旧・司法試験組」を無条件で尊敬することにしています。そんなレジェンズたちと「嫌な思い出」を共有できたのが、とてもうれしかったです。せっかくなので、たくさんの思い出を持ち帰ってください。

 長かった口述試験シリーズ、もし全部読んでくださった方がいらっしゃったら、長々とお付き合い頂いてありがとうございました。無事に通過されることを祈っています。