司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

書を捨てよ、論文を書こう

【読むとよいタイミング】勉強開始直後/論文を書く前

 

 もう何回も同じことを書いていますが、このブログはもともと、私が司法試験のために読んだ、広い意味での「勉強法」に関する60冊の本についての情報をまとめる目的で始めました。この1年で30冊くらいは紹介できたと思います。

 ただ、60冊全部がオススメというわけではないので、もう、紹介したい本はそれほどありません(あと5冊くらい)。

 他方、私はもともと自己啓発本が大好きなので、司法試験後も継続して新しい本を少しずつ読んでいます。そして先日、ブログで紹介したい自己啓発本に出会ったので、新しく記事を書くことにしました。

 記事のテーマは「今すぐ論文を書き始めよう!」です。自分語りも少し加えて、何冊か紹介しようと思います。

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目次

前置き:カルツァの話

超ひも理論」で有名な物理学者テオドール・カルツァは、とにかく理論を重視したそうです。彼は、水泳に関しても、泳ぎ方に関する理論を徹底的に学術論文を読んで研究しました。そして、人生で初めて池に飛び込んだ際、一発で見事な平泳ぎを披露したとのこと。

 …なかなか面白いエピソードですよね。

 しかし、カルツァのような超天才は一部の例外です。私のような凡人は、いきなり実践して一発成功できるほど、理論を徹底研究できません。論文式試験の会場に行って、人生で初めて法律試験の論文を書いてみて、合格できるわけがないのです。

本題:『エフォートレス思考』の話

 今回紹介したかった本は『エフォートレス思考』(かんき出版)です。2021年12月に発売された比較的新しい本です。紀伊國屋さんで平積みされているのを見かけていたんですが、引越しやら就活やらでバタバタしていて、先日ようやく読めました。

 努力(effort)が無い(less)というタイトルなので若干誤解を招きますが、著者は「サボろう」とか「怠けよう」などと主張しているわけではありません。限られたリソースを、本当に達成すべき目標に全力で注ぐための方法論が説かれています。

 どの章のどのエピソードも面白かったのですが、特に第9章「よい失敗を積み重ねる」の内容がとても良かったです。

 司法試験は「短答式試験」と「論文式試験」に大きく分かれますが、両者で求められる能力は全くの別物です。合否を分けるのは「論文式試験」の結果なので、いかにその対策に注力できるかで勝負が決まると言っても過言ではありません。

 しかし、論文を書くのはとにかくつらい。面倒。大変。とりあえず短答式試験の知識が身についてから書いてみよう…などと考えていると、少なくとも短期合格は望めません。また、これは持論ですが、短期合格を目指すのであれば、短答式試験の1か月前くらいまで、論文対策だけに100%注力するべきだと思っています。

 そんなことわかってるよ!もう論文書きまくってるよ!つらいよ!という受験生には関係のない話だったかもしれませんが、そうではない受験生にとっては、勇気づけられるエピソードがたくさん出てきます。ぜひ読んでみてください。

 最後に少しだけ文章を引用します。この文章の「ゴミ」という表現に反感を抱く方にこそ、読んでみてほしい本でした。

 不完全さを受け入れ、ゴミを作る勇気を持てば、私たちは始めることができる。

 そして一度始めれば、だんだんマシなものができてくる。

 そしていつかゴミの中から、あっと驚くようなブレイクスルーが生まれてくるはずだ。

 

 ちなみに『エフォートレス思考』は、『エッセンシャル思考』(かんき出版)がベストセラーになった後、その「実践編」のような位置づけで書かれた本です。日本でも2014年に発売され、ビジネス書大賞を受賞していたそうです。

 こちらの本は文字どおり、自分にとって本質的な(essential)物事を見極めるための方法論が説かれています。著者自身が述べているように、『エッセンシャル思考』で「What」を見定めて、『エフォートレス思考』で「How」を磨くようなイメージです。

 私は現在、やらなければならない「司法修習」が目の前にあって、その後しばらくは「新人弁護士」として、目の前の仕事にがむしゃらに取り組もうと思っています。そのため、あまり「What」に悩んでいないので、とても役に立った!という感覚はなかったです。読み物としては2冊とも同じくらい面白かったです。

(なお、『エッセンシャル思考』の中でも、物事を「早く小さく」始めることの重要性が説かれています。)

補足:『ULTRA LEARNING』の話

 話を戻します。今すぐ論文を書き始めよう、という話です。特にこれ以上のメッセージはないので、ここから先はすべて「補足」です。

 実践することの重要性を真正面から取り上げている本の1つに『ULTRA LEARNING』(ダイヤモンド社)があります。このブログでも何回か取り上げた記憶があります。

 著者が提唱する「ウルトララーニング」の最重要ポイントはシンプルです。外国語を3か月でマスターするための方法は、いきなりその国に住むこと。似顔絵を描く方法をマスターするための方法は、いきなり描いてみること。そのような実践を、この本では「直接性」と表現しています。

 それだけと言えばそれだけなんですが、1つ1つのエピソードが面白いです。また、「直接性」以外にも「計画(勉強法の勉強)」や「想起」や「フィードバック」など、重要なテーマがたくさん取り上げられています。この本を読み終える頃には、「論文式試験を受けたいなら、今すぐ論文を書くしかないんだ」と思えるようになるはず。

蛇足:自分の話

 先日、Google先生が教えてくれたんですが、「予備試験1年合格」という検索ワードと一緒に検索されることの多いワードは「スケジュール」だそうです。このブログは「予備試験1年合格」をうたっておきながら、あまり体験談を書いてこなかったので、たまには自分語りをしてみます。

 私は2019年の5月頃から法律の勉強を始めました。伊藤塾の「体系マスター」を聴き始めた時期です。そして、初めて論文の答案を書いたのが同じ年の8月でした。当然ながら全然書けず、本当に「ゴミ」のような答案でした。

 しかし、ゴミのような答案を書いてみて初めて、何を暗記しなければいけないのかがわかりました。それまで3か月間の勉強が全て無駄に思えるほどの気づきだったので、本当はもっと早く論文を書いてみるべきだったのかもしれません。

(結果的に予備試験は延期になり、そもそも合格発表はさらに翌年の2月なので、これで「予備試験1年合格」をうたったら優良誤認表示ではなかろうか…という後ろめたさもあって、今まであんまり具体的な話はしてきませんでした。この機会に自白しておきます。)

 

 そして、その年の8月末、早稲田大学ロースクールを受験しました。『ノルウェイの森』みたいな学生生活を送ってみたかったんです。既修コースを受験したので、憲・民・刑・民訴・刑訴の5科目の論文式試験でした。

 結果は見事な惨敗。

 まあ、今になって振り返れば、コロナで『ノルウェイの森』みたいな学生生活は望めなかったわけだし、運よく翌年度の予備試験も通過できたので、見事な惨敗でよかったな〜と思っています(負け惜しみ)。

 なんでこんな話までしたかというと、失敗エピソードを披露して好感度を上げたかったからではありません。「3か月間で5科目の論文を書けるようになる」という無謀な目標を立てて、そのときに失敗体験をしておいたからこそ、翌年度の予備試験に向けた実践的な学習ができるようになったと思っているからです。

おまけ:講談の話

 いつかこのテーマで記事を書くことがあったら紹介したいと思っていた話があります。自分語りなんかしていたら記事が長くなってしまいましたが、もう少しだけ書きます。

 私は受験生になる前から、寄席などに行って落語や講談を聞いていました。そして受験生の頃、神田松之丞さんが神田伯山を襲名することになり、勉強をサボって最後の独演会を聞きに行きました。

 そこで最後の演目として披露されたのが、『淀五郎』です。自分の能力に見合わない役柄に大抜擢された役者の淀五郎が、先輩役者の中村仲蔵のもとへ行き、アドバイスをもらうシーンがあります。2年半前の記憶を頼りに再現してみますが、間違っていたらすみません。

仲蔵:お前さん、上手くなるための方法を知っているか。

淀五郎:いえ…わかりません。

仲蔵:恥をかくことだよ。恥をかいて、恥をかいて、ようやく少しだけ上手くなるんだ。

 正直、ゴミみたいな答案を書くのは本当に恥ずかしかったです。それを誰かに見てもらったり、添削してもらったりすると、余計に恥ずかしいです。でも、そういう恥ずかしい経験を通じてしか、上達する道はないんだろうなと信じています。

 

 すみません、最後の話はほとんど自分に向けて書いたようなものです。周囲より歳を取って修習に行くと、恥をかくことにためらう場面が多々あります。そんなときにはこの言葉を思い出し、これからもゴミみたいな起案をして、恥をかいて、恥をかいて、少しずつ上手くなっていきたいなと思います。

 

頼むから勤務弁護士にしてくれ

【読むとよいタイミング】司法試験の後

 

 私は去年10月、Twitterきっかけで参加したZoom飲み会で事務所合同説明会のことを教えてもらい、そこから就職活動をスタートしました。(もし司法試験受験生でROMってる方がいれば、合格を機にアカウントを取得してみてはいかがでしょうか。人生が少し変わるかもしれません。)

 そういう経緯もあったため、内定の報告もTwitterでしようかな〜と思っていたんですが、内定先にアカウントバレするのも怖いので、とりあえず閲覧者数の少ないブログのほうだけで報告することにしました。

 というわけで…内定頂きました!ありがとうございます!!

 今回は、司法試験合格後から、弁護士としての就職先が決まるまでの間に読んだ本を紹介します。私はもともと司法試験受験生の知り合いが皆無の情報弱者だったので、そういった境遇の方の参考になればいいなと思っています。ならなかったらすみません。

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即独を回避しようと思うまで

 私は文学部を卒業後、法律とは無縁の(無法地帯の)民間企業で長いこと会社員をしてしまっていました。なんとなく昔から言われていた「弁護士の就職難」のイメージも引きずっていたこともあって、就職先なんて無いんだろうな〜と思っていました。

 そのため「即独」を覚悟し、最初に『実践!法律事務所経営マニュアル』(ぎょうせい)という本を買って読み始めました。

 この本では、地方で開業することを念頭に、物件選びから看板の出し方、事件の受任ルートの開拓手段まで、幅広いテーマで方法論が紹介されています。その話もおもしろいのですが、今回はその話ではありません。

 この本には「コラム」が15個載っていて、コラム1のテーマが「即独はやめておきましょう」という趣旨なんです。理由の1つ目は、「初めての弁護士業務」だけでも大変なのに、「初めての事務所経営」を両方こなすのはもっと大変だから。理由の2つ目は、先輩弁護士から指導を受ける機会を失うから。

 弁護士なんてタウンページに電話番号を載せておけば生活に困らないくらいの仕事は来るでしょ〜、とか、業務に必要な知識は司法修習で学べるでしょ〜、とかとか、非常識な考えを抱いていた私はここでようやく目が覚めました。

弁護士就活を頑張ろうと思うまで

 んだば、ダメもとで弁護士就職を目指して就職活動をしてみようか…と思い、次に『新・弁護士の就職と転職』(商事法務)という本を読みました。

 この本の著者は、いわゆる「四大事務所」での勤務弁護士を経て、弁護士事務所を独立開業して経営弁護士を務めるかたわら、弁護士のキャリアコンサルタントヘッドハンティングの仕事もしている方です。

 副題に「72講」と書いてあるのでビビるかもしれませんが、全体で150ページほどの薄い本で、とてもコンパクトに弁護士業界の就職・転職事情が解説されています。

 また、就職活動の実践的なテクニックも紹介されています。自らの司法試験の順位に伴って、履歴書に書く内容や、面接での立ち振る舞いを変える…という話などは「弁護士就活ならでは」でおもしろいなと思いました。

 なお、この本の大きな特徴として、インハウスの転職事情も詳しく載っている点があります。私は意地でも会社員には戻りたくないと思っていたのであまり参考になりませんでしたが、きっとこれからどんどんインハウスも増えていくんだろうなあ、と思って興味深く読みました。

企業法務がいいなあと思うまで

 さて、これでようやく就職活動を始める準備が整いました。では、どんな事務所に履歴書を送ればいいのでしょうか。

 私は労働事件に携わりたくて弁護士を目指し始めたので、まずは労働事件の大家である高井伸夫先生の本を読みました(以前Twitterでも紹介した気がします)。高井先生の本を読んで、労働者側の労働問題だけではなく、企業側の人事・労務問題を扱う業務もおもしろそうだなと思うようになりました。

 そこで、次に読んだのが企業法務の第一人者・中村直人先生の本です。日経新聞の「企業が選ぶ弁護士ランキング」企業法務部門で前人未到(?)の10連覇を継続中の偉人です。

『弁護士になった「その先」のこと。』(商事法務)は、中村・角田・松本法律事務所の新人弁護士向けの研修を文字起こししたものです。朝何時に出勤して、顧問先とどうやって連絡を取って、どうやって調査して、訴訟の期日には何をしに行けばいいのか、といった方法論が具体的に書かれています。

 本の雰囲気を伝えるのはとても難しいんですが、とにかく中村先生が全力で仕事に取り組んで楽しんでいる様子が伝わってきて、ああ、こういう仕事がしたいなと率直に思いました。

 世の中にはあまり訴訟に携わらない企業法務の事務所もあると聞きますが、私はきちんと訴訟に携わる事務所に就職したいと思うようになりました。

 

 さて、もはや就職活動とは無関係ですが、中村直人先生がかっこよすぎるので、もう2冊紹介します。

 まずは『訴訟の心得』(中央経済社)です。従来、私は頑なに「紙」で本を読んできたんですが、絶版になっていたため、ついにkindleデビューしてしまいました。

 この本は、準備書面の書き方とか、証拠の出し方とか、尋問のやり方とか、弁護士向けのテクニックが書いてある本なので、なかなか修習前だとイメージがわかないかもしれません(少なくとも私は修習中に読んだ本の中で一番おもしろかったです)。

 私がこの本で一番好きなのは、あとがきです。副題は「楽しい訴訟」。少し長いですが、最後の部分を引用させて頂きます。

 訴訟の結論はどうやって決まるのか? というと、初学者は、

 「法律と証拠によって決まる」

 と答え、そこそこ勉強した者は、

 「いえいえ事件のスジですよ」

 と答える。

 さらに熟達の弁護になると、

 「難しい事件は、最後、弁護士の執念で決まるのですよ」

 と答える。

 弁護士の執念の調査、熟慮と、魂のこもった迫力の書面が裁判官の心を動かすのである。そして勝ったら必ず喜ぶことである(『ONE PIECE』のルフィのように)。

 それが戦系の弁護士である。

 突然のルフィ登場に驚きますが、それはさておき、良い文章ですよね。勝ったら喜ぶ。なお、最後の「戦」には「いくさ」とルビがふってあります。「戦系弁護士に、おれはなる!(どーん)」

 

 もう1冊紹介するのは『訴訟の技能』(商事法務)です。

 この本は、大きく分けて2部構成になっています。第1部は、元・裁判官の弁護士2名、会社訴訟の専門家弁護士1名、知財訴訟の専門家弁護士1名による座談会。第2部は、4名それぞれが書いた文章。

 座談会で中村先生が語っている内容は、『訴訟の心得』と重なっているものが多いかなという印象ですが、第2部で書いている内容はとにかく新鮮です。

 例えば、あえて「策略は有効か?」というテーマで「陽動作戦」「木に登らせる作戦」「離間の策」「ディストラクション」といった各種策略を紹介しています。決してポジティブな文脈で紹介しているわけではないのですが、そもそもこういったテーマの文献自体があまり存在しないので、とても刺激的でおもしろかったです。

おまけ:就職先を決めるまで

 すみません、話が脱線しすぎました。

 そんなこんなで(?)、企業法務をはじめ幅広い訴訟案件を取り扱う事務所に履歴書を送り、面接を経て、無事に内定を頂くことができました。

 ただ、その前に、すでに内々定を頂いていた個人事務所に決めて就職活動を終えるか、弁護士がたくさん在籍する事務所への就職活動を続けるか、非常に悩んでいました。そんな話を父にしたら、次のような話をしてくれました。

 最近になって思うんだけど、「鶏口牛後」って中国の古事成語、あれは嘘だな。鶏と牛が闘っても勝負になんかならない。鶏は鶏としか闘えないんだ。

 なんだか、わかったようなわからないような話ですよね。

 別にどちらが優れているとかではなく、それぞれに果たしている役割が異なるのだと思います。あくまで私は「多くのひとに良い影響を与えられるような仕事がしたい」と思ったので、就職活動を続けることにしました。新聞に載るような裁判って、やっぱり大きな事務所か、大人数の弁護団が担当していることが多いですよね。

 すみません、あんまり偉そうなことは書きたくなかったんですが、お断りした個人事務所の先生から遠回しに「給料で選んだんだろ」と言われて悲しかったので、こんなところでこっそりと反論させて頂いた次第でした。

 

人の演習書を笑うな

【読むとよいタイミング】論文式試験の前

 

 先日、令和4年度の司法試験があったそうです。受験された方々、本当にお疲れ様でした。つらい試験ですよね。人生でもう二度とこんな人権侵害をされることもないだろう…と思っている方々に朗報です。司法修習でさらなる人権侵害が待っています!

 …冗談はさておき。

 昨年から「伊藤真との対談のオファーが来ないなあ〜」と嘆いていたのですが、ついに最新の受験生ではなくなってしまったので、さすがに諦めました。

 そして「そういえば『受験新報』の執筆依頼も来ないなあ〜」と思っていたら、どうやら2020年夏に休刊になっていたようですね。残念。

 というわけで、勝手に書くことにしました。「オレ/ワタシの使った演習書」をドヤ顔で紹介する記事です。実はずっと憧れていたんです。

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はじめに

 そもそも伊藤真信者なのに市販の演習書なんて使っていたのか、というツッコミが予想されますので、先に経緯を説明しておきます。演習書を「使った」と言えるほどのものではなく、ただ「読んだ」だけです。

 2020年4月8日、司法試験と予備試験の延期が決まりました。

 別に勉強のやる気を失ったわけではないんですが、なんというか、そわそわして勉強に集中できなくなってしまいました。あの初めての緊急事態宣言の感覚を思い出すのも難しいんですが、変な感覚でしたよね。

 そんな状況のもと、もともと読書は趣味なので、まあ、読むだけなら気楽でいいか〜、と思って演習書を読み始めました。

 以前、何かの記事でも紹介しましたが、河野玄斗氏の勉強法に関する本にはオススメの演習書も載っています。刑法・刑訴法・民訴法・行政法はそれを参考に買いました。残りの科目は、予備校の職員さんに紹介してもらった本です。

 どの本も勉強になったから紹介するわけですが、せっかくなので、役に立ったと思う順番に紹介します。改訂前の版を読んだものも多いので、紹介されている設問数はあくまで参考値だと捉えてください。すみません。

1. 刑事訴訟法『事例演習刑事訴訟法

 最初に紹介するのは、古江先生の演習書です。この筆者は絶対にものすごく頭が良いんだろうな、ということがビシビシ伝わってくる本です。この本に感動したからこそ、他の科目も演習書を読んでみようと思えました。

 全体的にオススメですが、個人的には「まえがき」に当たる部分が一番シビれました。一部だけ紹介すると、答案によく見られる「本件の令状は違法である。」「甲の自白は、自白法則により無効である。」といった文章の誤りを指摘した上で、次のように述べます。

A君:なるほど……。でも、えらく細かいなあ。

教員:実務法曹にとっては言葉が命なのだよ。これらは決して些細なことではない。実務法曹は、オリンピックの体操選手のように足のつま先まできちんと揃っていなければならない職業なんだ。

 引用箇所を見てもらえればわかるとおり、この本は、対話形式になっているのが最大の特徴です。33個の設問について、A君とBさんと教員が延々と議論し続けます。私はこの形式がとても読みやすかったのですが、読みにくいと感じるひともいるようです。

 ちなみに、先ほど、2つの「間違った文章」を紹介しましたが、どこが間違っているのかわかりましたか? 何の違和感もなかった、という方にこそ、ぜひ読んでほしい本です。

2. 会社法『事例で考える会社法

 いきなり長々と紹介しすぎたので、ここからは簡潔に紹介します。

 この本は全部で25個の事例を解説したものです。大きな特徴として、事例1〜6に参考答案がついています。参考答案がついていない事例に関しても、いわゆる「論証」や「当てはめ」を意識した解説がなされているので、とても参考になります。

 ただ、共著本のため、解説のわかりやすさにバラツキがあります。1人だけ、とても解説がわかりにくい先生がいます。自分の脳みそが壊れたんじゃないか…と不安になるくらい理解できない解説でしたが、某書評サイトでも同じ先生が名指しで批判されていたので、自分の脳みそが壊れたわけではないんだと思っています。

3. 行政法『事例研究行政法

 この本は、第1部から第3部まで分かれていて、それぞれ8問・17問・7問の事例問題を扱っています。

 河野玄斗氏は「時間がなければ第1部の答案構成だけでもOK」という趣旨のことを書いています。確かに第2部、第3部と進むにつれて、マニアックな話が増えてきます。読み物としては最後まで面白いですが、受験対策という観点からは第1部を読むだけでも十分かもしれません。

 私はこの本の第1部を読んでから、処分性とか原告適格について何もわかっていなかったんだな、ということにようやく気づけました。感謝しています。

4. 刑法『刑法事例演習教材』

 この本の特徴は、設問数が48個と、とても多い点です。この本で紹介されている事例について論点がすぐに思い浮かぶくらいになれば、ひとまず司法試験までは安心だと思います。

 他方、設問が48個もあるのにページ数が250ページくらいしかないので、一部、解説がとても簡素な設問があります。解説が簡素だから重要性が低い、というわけでもないので、わからない点は放置しないように気をつけましょう(添削者みたいに偉そうなことを言ってすみません)。

5. 民事訴訟法『基礎演習民事訴訟法』

 全部で30個の論点について、それぞれいくつかの設問が載っています。それぞれの設問に関する解説があった上で、それぞれのテーマにおまけの発展問題までついています。共著本なので、解説のわかりやすさには若干のバラツキがあります。

 全体的にわかりやすいし、網羅性もあるので、何も不満はないのですが、他の科目で紹介した演習書のような感動はありませんでした。(おそらく、私が民訴が一番好きな科目で、もともときちんと勉強していたからだと思います。)

6. 民法民法演習サブノート210問』

 他の科目で紹介した演習書と比較すると「演習書っぽさ」が足りないので、最後に紹介しています。この本は、タイトルにあるとおり「210問」について、問題が1ページ、解説も1ページにまとめられているものです。

 予備試験よりも司法試験に顕著な特徴ですが、民法では「小テスト」のような設問が出題されます。私が受けた令和3年度の民法にも「指図による占有移転でも即時取得できるか?」という簡単な問題が含まれていました。(令和2年度は予備試験でも「後見人就任後に追認拒絶できるか?」という小テストみたいな問題が出ました。)

 他の受験生に尋ねたことがないのでわかりませんが、民法だけは「全部の論点を網羅してるよ!」って胸を張って言える受験生がいないのではないでしょうか。この本で取り上げられている210問はほとんど全てが重要なものなので(少しだけ特別法がらみのマニアックな問題が含まれますが)、抜け・漏れがないかの最終確認のために読んでみてもいいと思います。

7. 憲法『事例問題から考える憲法

 憲法については、前回、詳しく書いたのでそちらの記事をご参照ください。

article23.hatenablog.jp

番外編 労働法『事例演習労働法』

 今回は予備試験前に読んだ演習書を紹介する記事なので、労働法は「番外編」としておきました。ただ、救われた度合いとしてはトップです。以下の記事で詳しく紹介しているので、労働法選択の方はぜひ覗いてみてください。

article23.hatenablog.jp

 と、ここまで書いて気づいたんですが、令和4年度からは予備試験でも選択科目が必要なんですね。選択科目で悩んでいる方にも役に立つかと思うので、よければぜひ覗いて見てください(しつこいですね、すみません…)。

おわりに

 伊藤真信者としては、伊藤塾の『問題研究(過去問を含む)』と各種答練で扱う問題だけで、十分に論文式試験を通過できると思っています。では、演習書を読むメリットって何でしょうか?

 それは、予備校の「論証パターン」以外の論証の仕方を知ることだと思います。こんな論述の仕方もアリなのか、ということを知ることで、論証の自由度が上がります。少し比喩的な表現になりますが、可動域が広がるイメージです。

 また、反対説を丁寧に学習することで、自説の説得力が上がります。添削していると、「このひとは問題の所在がわかっていないな〜」という答案は(たとえ論証パターンを正確に書き写してあっても)すぐわかってしまいます。反対説を学習すると対立点が明確になりますので、少なくとも「問題の所在がわからないのに論証する」ということがなくなります。

 

 そんなわけで、伊藤真信者が市販の演習書を読むメリットを総括すると、「恋人以外の異性とデートしてみて、あらためて恋人の素晴らしさを知る」みたいな感覚なんですが……あんまり良くない比喩ですよね。まあ、それに比べれば、演習書を読んでも誰からもバッシングされませんから、気分転換に1冊くらい読んでみてもいいんじゃないでしょうか。