司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

司法試験予備試験に1年合格したペンギンの備忘録

文学部卒。元会社員。2019年夏頃から勉強を始め、2020年度の司法試験予備試験・2021年度の司法試験を通過しました。

ふがいない僕はヤマを張った

【読むとよいタイミング】予備試験後〜司法試験直前

 

 先日、弁護士会の勉強会に修習生の立場で参加させて頂きました。その勉強会で、「労働者から使用者に対する逆求償の可否」に関して判断した最高裁判例が取り上げられていました。

 そういえば、きちんと労働法の勉強を始めたのは去年の今頃、本番まで3か月を切った頃だったなあ〜と思い出して懐かしくなったので、今回は労働法について書こうと思います。

 労働法について書こうと思います、と言った直後に恐縮ですが、あんまり労働法のことは書いていません。むしろ、過去問や問題集を使って「ヤマを張る」方法について書いています。そういう“博打”に興味のない方や、司法試験過去問のネタバレが嫌な方はご注意ください。

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(Pixabayからのイメージ画像)

目次

過去問からヤマを張る

 そもそも、ヤマなんて張らないに越したことはないですよね。満遍なくすべての論点を潰せる余裕があるのであれば、ヤマなんて張らなくていいと思います。しかし、本番まで3か月しか無いのだとすれば、ヤマを張るしかないのも現実です。まあ、まずは目くじらを立てず、気軽に読んでみてもらえるとありがたいです。

 さて、ヤマを張るのであれば、まずは過去問から分析するのが王道でしょう。ということで、2011年から2020年までの司法試験の労働法第1問の出題テーマを並べると、こんな感じになります(2010年以前のデータが無いのは、私の気力が尽きたからです)(第2問の分は割愛します)。

司法試験労働法出題分析

 結論を出すには早すぎますが、この表を眺めていると、どうやら周期的に2021年は「契約」分野からの出題の可能性が高いのではないか…ということがわかります。

問題集からヤマを張る

 さすがに過去問だけでは心もとないですから、水町勇一郎先生が編著に携わった『事例演習労働法』(有斐閣)も使ってヤマを張ります。水町先生は2021年度の司法試験考査委員を務めており、名簿を見ると、2022年度も続投しているようです。

 この問題集には全部で51問(枝番号含む)の問題があります。出題テーマを分析して先ほどの表に書き加えると、次のようになります(新たに加わった論点は、赤字にしてあります)。

司法試験労働法出題分析

 どうでしょう、この辺まで来ると、眺めているだけで楽しくなってきますね。いくつかあやしい出題テーマが絞れてきました。

(なお、お恥ずかしい話ですが、私はこの問題集を解いていません。すばらしい「模範解答」がついているので、ひたすら読んで暗記していました。だって、時間が…)

判例集からヤマを張る

 ここまでで結論を出しても問題はないのですが、労働法では最新判例の事例がそのまま出題されるようなケースが目立っていたため、私は念のため『重要判例解説』も見ておくことにしました。

 令和2年度分と令和元年度分をパラパラと読んだ結果、そのままの事例で出題できそうな判例は3つくらいしかない、と踏みました。一応これも書き加えると、表は次のようになります。

司法試験労働法出題分析

 さあ、これらを踏まえて出題テーマを予想した最終結果は、以下のとおりです。

【金メダル】雇止め(と整理解雇を絡めた問題)
【銀メダル】使用者から労働者への求償
【銅メダル】管理監督者
【入賞】退職金不支給(と競業避止義務を絡めた問題)
【入賞】降格(人事権の行使 or 懲戒処分)

 なぁ〜んだ、って感じですかね。おそらく、ふつうに勉強しているひとならば、ヤマを張らなくても当然に論証を暗記しているようなテーマなのかもしれません。まあしかし、雇止めとかは論証の書き方が複雑ですからね、いざというときに自動的に手が動くくらい完璧に準備しておきたいところでした。

実際はどうだったのか

 そんなような予想をしつつ、結局、令和3年度の司法試験の労働法第1問の出題テーマは以下のとおりでした。

設問1 懲戒処分の有効性
設問2 使用者から労働者への損害賠償請求の可否
設問3 整理解雇の有効性

 …

 使用者から労働者への求償の問題がアタリ!でしたね(逆求償の事例で出題されるかと思いましたが、古典的な求償の事例で出題されました)。長々と書いてきましたが、今回はここでドヤ顔をしたくてブログを書いていただけと言っても過言ではない。

どやっ

 

 ちなみにこの「ヤマを張る」というのは、当然ながら、私オリジナルの勉強法(?)ではありません。以前このブログでも紹介したことがあると思いますが、資格スクエアの鬼頭政人氏がいくつかの著書の中で「ヤマを張る」勉強法を勧めています。

 この記事をここまで読んでもらえばわかったと思いますが、「ヤマを張る」と言っても、やっている作業は、過去問分析と、メジャーな演習本の分析、最新判例の分析です。勉強法としては王道中の王道ですから、他の科目でも役に立つことがあるのではないかな〜なんて思って書きました(正当化)。

その他 労働法おすすめ本

 最後に、せっかくなので、労働法を勉強するために読んだ本も紹介しておきます。

 まずは森戸英幸先生の『プレップ労働法』(有斐閣)です。オヤジギャグにアレルギー反応を持つ方にはつらい本かもしれませんが、我慢して読む価値のある入門書です。ぜひ頑張って読んでほしい一冊。

 私は森戸先生のオヤジギャグがクセになってしまったので、続いて『労働法トークライブ』(有斐閣)を読みました。対談形式でおもしろかったですが、テーマが実務的なため、試験対策的な意味ではこちらまで読む必要はないかもしれません。試験後、もし労働法に興味があったらぜひ読んでみてください。

 

 以上です。

 ブログを書くのが久々だったので近況でも書こうかな〜と思いましたが、記事が長くなってしまったので手短に済ませます。実務修習が始まってからずっと体調が良くなかったのですが、ようやく落ち着いてきました。生活にもゆとりが生まれてきました。

 とはいえこれからまた季節の変わり目ですから、どうか皆様も健康第一でお過ごしください。

 

ご冗談でしょう、ランニングマンさん【追記】

※この記事は前回の記事の追記です。

走りたくなった?(^ω^)

ならないよ

なんで?なんでなんでなんで?

えー
筋トレしてるからいいじゃん

有酸素運動してよ…

えー
チャリ通してるからいいじゃん

地に足をつけてよ…

なんで?なんでなんでなんで?

 

 前回に引き続き、実際に友人と交わした会話の再現です。

 なんとなく走りたくならないという気持ちもわかります。年代によるのかもしれませんが、私の場合、小学校のクラブ活動でも、中高の部活動でも、「走らされる」というのは懲罰でした。私も高校時代、部活動の顧問の先生から、縄跳びで「50回連続の二重跳び」に失敗した懲罰として10km走らされたのがトラウマです。

 前回の記事を読んでも走りたくならなかった方のために、走りたくなるような本をまだまだ紹介します。

 

目次

 

どれくらい走ればいいのか?

 その前に、前回の記事の末尾に書いた「どれくらい走ればいいのか?」という問いに答えます。

 前回紹介した3冊は、すべて医学博士の書いた本でした。私は、科学とは「批判可能性を持つもの」だと捉えています。科学であるためには、厳密に前提条件やら再現可能性やらを詳しく書く必要があるため、科学「的」な本のようにズバリと結論を書いてはくれません。

 というわけで、メンタリストDaiGo氏に登場してもらいましょう(すみません)。彼は『超効率勉強法』(学研プラス)のなかで、ズバリこう書いてくれています。

 過去14件の研究をまとめた質が高いデータによれば、海馬を増やすための運動ガイドラインはこのようになります。

1. 軽い運動の場合:1回40分のウォーキングを週に3回、最大心拍数の50〜60%ぐらいで6〜12か月続ける

2. 負荷が高い運動の場合:1回30分〜60分のジョギングまたはサイクリングを週3回、最大心拍数の80%ぐらいで3〜6か月続ける

 ただ、先日、メンタリストDaiGo氏が信者向けのビジネスを しれっと再開したことに対して、「彼の言うことはもう信じられない」と思ってしまった方も多いと思います。

 そんな方のために、ピンポイントでの引用となってしまいますが、『脳を最適化するブレインフィットネス完全ガイド』(CCCメディアハウス)という本にも同様の記載があるので、こちらも紹介しておきます。

Chapter3 健全な脳は、健全な身体に宿る

どんな種類のエクササイズを、どの程度やるか?

(略)量や頻度で言えば、30〜60分のエクササイズを最低週3回行うと良いだろう。

 この本は、見た目のうさんくささとは裏腹に、運動・食事・睡眠・瞑想といった観点から「脳を鍛える(=ブレインフィットネス)」方法を真面目に紹介している本です。今回は深掘りしませんが、またいつか詳しく紹介できればいいな〜とは思っています。

どれくらい走らなければいけないのか?

 ここまでの記載内容によって、「そんなに週に何回も運動したくないよ〜」ってことで、走る意欲を削いでしまったかもしれません。安心してください。前回の記事で紹介した本のなかには、「少しでも走れば効果がある」という例も紹介されています。

 まず、『脳を鍛えるには運動しかない』では、最大心拍数60〜70%でランニングマシーンを使った場合に認識の柔軟性が高まる、という事例を紹介しています。認識の柔軟性とは、連想力や発想力のようなものです。

 次に、『一流の頭脳』では、9歳児が20分間の運動をした場合に読解力が向上する、という事例を紹介しています。この事例が紹介されているチャプターの見出しは「たった一度の運度でいい」です。やさしいですね。

 たった一度でいいんです。どうでしょう、そろそろ走りたくなってきましたか?

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(Pixabayからのイメージ画像)

なぜ走らなければならないのか?

 そもそも、私たちはなぜ走らなければならないのか? 次はそんな視点から、走りたくなるような本を紹介して行きます。

 前回紹介した『脳を鍛えるには運動しかない』の著者であるジョン・J・レイティ博士は、共著で『Go Wild』(NHK出版)という本も出しています。

 前回の記事で私は、進化論的な視点から「なぜ走ることで記憶力が高まるのか?」という説明をしてみました。この本では、それをさらに突き詰めて、食事や睡眠や瞑想といった観点も含めて、私たちが最も高いパフォーマンスを発揮できる方法を多角的に解説しています。

 あまりにテーマが広範なのでまとめにくいですが、その方法をあえて一言でまとめるのであれば、「Go Wild」すなわち「野生的なライフスタイルを取り戻すこと」です。そうだとすると、走るとしても「野生的に走ること」が望ましいと考えられます。というわけで、この本では大自然の中を走る「トレイルラン」を推奨しています。

 この進化論的な考察をさらに突き詰めるどうなるか? 実際に「Go Wild」な生活をしている人々を取材した本が、『Go Wild』のなかでも紹介されている『Born to Run 走るために生まれてきた』(NHK出版)です。

 この本は先の2冊とは著者も違いますし、内容も全然違います。それにしても『脳を鍛えるには運動しかない!』→『野生の体を取り戻せ!』→『走るために生まれてきた!』と、どんどん主張が先鋭的になってきました。

 この本では、3つの旅の物語が複合的に進行して行きます。

 1つ目は、メキシコの山岳地帯に生活していると言われるタラウマラ族を探す旅。タラウマラ族は、2日日で700km(東京〜広島)を走破すると言われている、最強の“走る民族”です。物語はタラウマラ族の消息を知ると噂される「カバーヨ・ブランコ」なる謎の人物を探す場面から始まります。

 2つ目は、著者自身の「走ると足が痛くなる」という悩みを解決するために、様々な専門家のもとを訪れて、その謎を科学的に解明するための旅。この旅の過程で「人間は走るために生まれてきた」という著者の仮説に対する考察が深まって行きます。

 そして3つ目は、(どこまで踏み込んで言っていいのか微妙ですが…)著者がアメリカから最強のウルトラランナーを引き連れて、メキシコの秘境に乗り込んで行って………という旅。この部分がクライマックスで、最もエキサイティングです。

 なかなかにページ数が多い本なので、あまり試験直前に さくっと読める本ではありません。しかし、物語風のルポタージュなので、気分転換にはなるかもしれません。今まで紹介してきた本のなかでも、「走りたくなる度数」は最も高いと思います。今回の記事は、この本を紹介したくて書きました。

なぜ「走る」でなければならないのか?

 私たちは走るために生まれてきたーーこれだけで冒頭のシロクマの質問に対する答えとして十分な気もしますが、もう少しだけ踏み込んで話をします。

 これまで紹介した本の中では「運動」と言う言葉としか記載されていないものを、私はあえて「ランニング」や「走る」という言葉で記載してきました。私がランニングにこだわっているのには理由があります。

 その理由とは、骨です。

 まず、山中伸弥教授がMCを務めたNHKスペシャル「シリーズ人体」を覚えていますか? このシリーズでは、従来の「脳が身体を支配する」という一方向のモデルではなく、新たに「身体から脳に対してもメッセージを送っている」という双方向のモデルが提示されました。

 例えば、脂肪はただの備蓄品ではなく、「満腹だよ!」というメッセージを脳に送る機能を持っています。そのため、生まれつき脂肪がつかない病気(脂肪萎縮症)にかかってしまった子どもは、脂肪から脳に対して「満腹だよ!」というメッセージを送ることができず、親が静止しないかぎり、際限なく食べ続けてしまうことがあります。

 では、骨からはどんなメッセージが送られているのか? 本も出版されていますが、NHK健康チャンネルにもダイジェスト記事が残っていました。

www.nhk.or.jp

 メッセージ形式で書くのであれば「若さを保て!」でしょうか。骨に対して適度な衝撃を与えて、適度に骨が壊されることによって、新たな骨が作られ続けます。その際に骨から出されるメッセージ物質によって、記憶力を高めることができると考えられています。

 このような理由から、私は「筋トレ」や「自転車」よりも、記憶力向上のための運動として「走る」ことが適していると考えています。

走ると最終的にどうなるのか?

 前回の記事の冒頭で村上春樹の話から始めたので、最後も村上春樹の話で終えたいと思います。彼は『やがて哀しき外国語』(講談社)というエッセイ本のなかで、こんなことを書いています。

 長距離を走る人間には退屈で凡庸な人間が多いと言う説がある。僕自身も長距離を走るわけだが、この説にはかなり信憑性があるように思う。たとえばランニングの専門誌の投書欄なんかを読んでいると、確かにこりゃ退屈だなとつくづく感心させられることがある。世の中には数々の専門誌があるけれど、こと文章的退屈さに関してはランニング雑誌はかなりいい線をいっていると思う。歯科技工士の専門誌だって文章的にはもう少しカラフルではあるまいか。

 かなり辛辣ですよね。

 もし私の文章が退屈だと感じられている場合、私が長距離ランナーであることが原因です。反対に、私の文章が退屈だと感じられていない場合、私の走り込みが足りない証拠です。

 みなさんも長距離ランナーになって「あ〜あ、退屈で凡庸な人間になっちまったな〜」と言ってみたくありませんか?

余事記載

 さて、これでキレイに(?)終われるかと思いきや、前回の記事の末尾で、私が「どれだけ走ったのか?」を書く、と予告してしまっておりました。完全に余事記載。けどきちんと書いておきます。

 スマートウォッチなるハイテク機器のGPS機能を使わず、スマホのメモ帳に完走時間をメモしていただけなので、距離については正確ではありません。

  • 集計期間: 2019年12月2日〜2021年5月10日(525日)
  • 走った日数: 156日
  • 1回に走った距離: 約5km
  • 期間内に走った距離: 約780km

 地球1周分くらいは走ったかな〜なんて思って集計を始めましたが、実際には東京〜札幌間(約830km)にも及びませんでした。タラウマラ族2日分。恥ずかしい…

 3.37日に1回、走っていたようです。3日に1回は走ろうと決めていましたから、片頭痛で寝込んでいた日数を考慮すると、こちらはまあ予測通りでした。

 ちなみに司法試験までの期間で集計してみましたが、現在も北大構内を元気よく走っています。もし見かけたらぜひお声がけください!

 

ご冗談でしょう、ランニングマンさん

【読むとよいタイミング】勉強開始直後/勉強が捗らないとき

 

司法試験受かったお(^ω^)

天才じゃん!

あ、いやいや、運が良かったのと、皆様に支えられて…

そういうの大丈夫だから!

あ、あと、勉強法に関する本を読みまくったおかげかと…なんだかんだ60冊も

じゃあ何か1冊教えて!

そうだなあ…一番役に立ったのは『脳を鍛えるには運動しかない』かな

…?

いや、運動とか、したくないのよ
もっと楽ちんにさ、

『脳を鍛えるには運動しかない』

 

 先日、実際に友人との間で交わされたやりとりです。会社の同期や親戚とも、似たようなやりとりを交わしました。(気まずい空気が流れると、次善の策として伊藤真に対する信仰心について熱弁しました。)

 ただ、なんとなく「運動」を避けたくなる気持ちはわかります。私も大学生の頃、すなわち最もデカダンな生活を送っていた頃、村上春樹の『走ることについて語るときに僕の語ること』を読んで、「やめてくれよ健康オタク」と思いました。私の場合、陽の当たる体育会系な生き方を避けるために日陰の文化系な生き方を選んだので、「運動」とか言われると拒絶反応が出たのです。

 しかし、時は流れ、私も健康オタク側に来ました。合格のために手段は選んでいられません。もし「運動」とか言われて拒絶反応が出てしまう方も、自分の達成したい目標に思いをいたして、まずは気軽にこの記事を読んでみてもらえるとうれしいです。

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(Pixabayからのイメージ画像)

目次

 

『脳を鍛えるには運動しかない』

 私が幼かった頃、「脳細胞は増えないので、減る一方だ」と素朴に信じられていました。そのため、頭をぶつけると「ああ、今脳細胞死んだね」と家族に悲しい眼差しで見つめられた記憶があります。

 ところがどっこい、脳細胞は増えるのです。『脳を鍛えるには運動しかない!』(NHK出版)のサブタイトルには、「脳細胞の増やし方」という、とても魅力的なフレーズが入っています。

 では、どういうメカニズムで脳細胞が増えるのでしょうか?

 運動をすることで、脳由来神経栄養因子(BDNF)というタンパク質が分泌されます。これは「肥料」のようなものです。BDNFによって、脳の神経細胞ニューロン)の発生・成長が促されます。アメーバのようなニューロンから軸索が伸びてシナプス結合するイラストは、理科の授業で見たことがあるひとも多いのではないでしょうか。

 著者のジョン・J・レイティ氏は開業医としても活躍されている医学博士です。正確な知識を得たい方は、ぜひとも彼が書いたものを直接読んでみてください。すみません。

 

 ちなみにこの本では記憶力の向上以外にも様々な効果が紹介されていますが、特に私が好きな部分を少しだけ引用させてもらいます。ここでいう「自己規制」は「セルフコントロール」のことだと思います。

 近年、この見方がオーストラリアの研究者たちによって実証された。彼らは、二四人の学生を対象として、二か月に及ぶ運動ブログラムが自己規制に及ぼす影響を調べた。(略)

 彼らはスポーツジムに通う回数が着実に増え、タバコ、カフェイン、アルコールの摂取量が減り、健康的な食べ物を好み、ジャンクフードを敬遠するようになった。衝動買いや予算オーバーの買物をがまんできるようになり、以前ほど腹を立てなくなった。ものごとを先送りしなくなり、約束をきちんと守るようになった。そして、少なくとも以前に比べれば、使った食器をシンクに入れっぱなしにしなくなった。

 誇大広告じゃないか…?と心配になるほど効果をあげていますが、まあ、運動することを勧めているだけなので、たぶん大丈夫でしょう。私も使った食器を翌日までシンクに入れっぱなしにしなくなりました!(※個人の感想です)

『頭を良くしたければ体を鍛えなさい』

 先ほどの本は、勉強以外にも「ストレス」や「パニック」や「依存」に対する運動の効果について述べられています。私はその部分も大変役に立ったわけですが、たしかに分量は多いです。そこで、もっと薄く、勉強に関する部分だけを取り上げた本を紹介しておきます。

『頭を良くしたければ体を鍛えなさい』(中央公論新社)って『脳を鍛えるには運動しかない』と並ぶ冗談みたいなタイトルですが、こちらの共著者も医学博士と理学博士。真面目な本です。重要なエッセンスを凝縮して紹介していて、イラストも豊富なので、とても読みやすいです。

 ただ、私はこの本を近所の大学生協書籍部で購入したため、一般的な書店に置いているかどうか、自信がありません。現時点でAmazonには在庫があるようです。紀伊國屋さんでは見かけたことがないので、ご注意ください。

『一流の頭脳』

 似たような本を2つ紹介してしまったので、趣の異なるタイトルの本も紹介しておきます。日本でも『スマホ脳』(Amazonリンク)がベストセラーになったアンダース・ハンセン氏の『一流の頭脳』(サンマーク出版)です。

 著者は、スウェーデンカロリンスカ研究所でリサーチャーとして活動していた経験のある精神科医です。(タイムリーな話題として、カロリンスカ研究所と言えばノーベル生理学・医学賞の選考委員会があることで有名ですね。)今年6月には、NTV系列『世界一受けたい授業』に「保健体育教師」として出演されていたので、彼の素敵な笑顔をご覧になった方もいるかもしれません。

 他の2冊と同様、運動が記憶力の向上にどうつながるのか、ということが丁寧に説明されています。この本が他の2冊と違うところとして、「ひらめき」あるいは「アイデア」「クリエイティビティ(創造性)」に関して、運動の効果を丁寧に説明している点です。

 少なくとも私の経験した範囲において、予備試験も司法試験も「ひらめき」が無いと通過できない試験ではない、と感じてはいます(悪く言えば「丸暗記でも乗り切れる」試験だと思っています)。しかし、いわゆる「現場思考」の設問もありますし、問題文の事例がどの条文・論点に関係しているのか、という点に関する「ひらめき」があるに越したことはありません。

余談および私見

 現在『無理ゲー社会』(Amazonリンク)がベストセラーとなっている橘玲さんは、本のタイトルがセンセーショナルなので誤解されがちです(少なくとも私は誤解していました)が、膨大な参考文献に基づいて着実に議論を組み立てる、真面目な本を書いています。

 彼は『「読まなくていい本」の読書案内』(筑摩書房)という本のなかで、この半世紀の間にパラダイムシフトを起こした5つの分野の1つとして「進化論」をあげています。あまりに進化論の説明が説得的なので、旧来のパラダイムで説明されているものについて「とりあえず読まなくていい」のではないかと提言しています。

 すみません、ここまでは余談です。2冊とも面白い本でした。

 では、「運動」と「記憶」の関係について、進化論に沿って説明するとどうなるでしょうか?

 よく知られている通り、脳は他の臓器と比較して圧倒的にエネルギーを使います(重量では約2%にすぎないのに、全体の約18%のエネルギーを消費すると言われます)。動き回らなくていいほど食料が豊富であれば、脳内に膨大なネットワークを形成しないほうがエネルギーを節約できます。

 そして、環境の変化によって食料が得られなくなるリスクもありますから、エネルギーを節約できる個体のほうが、エネルギーを浪費する個体よりも生き延びる確率が高いです。ここまでが、動き回らない人間の記憶力が鈍くなるメカニズムに関する仮説です。

 次に、動き回って食料を探さなければならないような環境に置かれた場合について考えてみましょう。どこに木の実が落ちているか? どこに崖があって危険なのか? どこに肉食動物が潜んでいるか? 記憶すべきことは山ほどあります。

 そうなると、記憶力が高い個体のほうが生き延びられる確率は高まります。結果、自然淘汰により「長距離を走ることで記憶力を向上させる」というメカニズムを持った個体が、そうではない個体よりも生存確率が高かったため、現在の人類の形質として残ったのではないか…

最後に

 どうでしょう? 私は一時期、進化論(特に性淘汰)にハマって色々な本を読みあさっていたので、進化論で説明されると「ぐう」の音も出なくなるほど説得されてしまいます。

 しかしそれよりも、実際に走って、効果を体感してもらうほうが説得力は高いように思います。

 本当に記憶力が向上しているのかどうかを実感するのは難しいですが、『脳を鍛えるには運動しかない』で紹介されている「ストレス」「パニック」「依存」に対する効果は、比較的実感しやすいです。

(当たり前のことではありますが、大事なことなので書いておくと、「パニック障害」や「依存症」については、ひとりで本を読んで知識を入れるよりも、お医者さんに直接診てもらったほうがいいと思います。)

 さあ、そうなるともう、走るしかないですね! 記事が長くなりすぎたので「どれくらい走ればいいのか?」「どれくらい走ったのか?」という話は、別の記事として書こうと思います。書かなかったらすみません。